この記事では、2005年本屋大賞第4位と第30回川端康成文学賞を獲得した絲山秋子さんの『袋小路の男』を紹介します。
この本は、指1本触れることのない相手に、12年間片思いを続ける物語です。
気持ちは重いですね。でも物語は重くありません。
ページ数も少ないので、サラッと読めます。
読書はしたいけど、重かったり長かったりする物語はちょっと・・・という人にもピッタリです。
そんな『袋小路の男』を読んだ感想をまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしてください。
『袋小路の男』について
タイトル | 袋小路の男 |
著者 | 絲山秋子 |
出版社 | 講談社 |
発行日 | 2004年10月30日 |
ページ数 | 114P |
この本には、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」の3編が収録されています。
「袋小路の男」「小田切孝の言い分」は、大谷日向子が小田切孝に片思いする話。
「アーリオ オーリオ」は全く別な話です。
1編だけ関係のない話とは思わず、さっきまでの話とどうつながるのだろう、としばらく考えながら読んでしまいました。
著者について
著者である絲山秋子さんのプロフィールです。
- 1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
- 住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。
- 2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞。
- 2004年『袋小路の男』で川端康成文学賞を受賞。
- 2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
- 2006年『沖で待つ』で芥川賞を受賞。
- 他の作品に『スモールトーク』『ニート』『逃亡くそたわけ』『エスケイプ/アブセント』『ダーティ・ワーク』、エッセイ集『絲的メイソウ』がある。
メーカーの営業から作家に転身しています。
それから2年で文學界新人賞を受賞するなんて、才能の塊だったのでしょうね。
「袋小路の男」「小田切孝の言い分」
それではここからは、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」の2編と「アーリオ オーリオ」に分けて、あらすじや感想を述べていきます。
まずは、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」からいきますね。
「袋小路の男」「小田切孝の言い分」のあらすじ
高校生なのに、友達の家で朝まで酒を飲んだり、煙草を吸ったりしている大谷日向子。
日向子はジャズバーで同じ高校の1年先輩である小田切孝と出会う。
孝は成績が良くて、彼女がいるのにソープランドばっかり行ってるイケメンで有名な人だった。
それから日向子は孝のことが頭から離れなくなる。
就職しても、他の人と付き合って「浮気」しても、孝を思い続けた。
「袋小路の男」「小田切孝の言い分」を読んだ感想
日向子の12年に渡る片思いの話です。
指1本触れることなく、どんなに都合よく扱われても好きで嫌いになれない。
顔が好きというのは最強なのかもしれませんね。その顔を見れば許せてしまう。
それでもくじけない。
どこかの作家が言っていた。「もっともゆたかな愛は時の仲裁に服するものである」って。
私の味方は時間だ。今はだめでもきっといつかは。
引用:絲山秋子『袋小路の男』電子書籍P17
日向子が片思いを続けるのは「コンコルド効果」かもしれない、と思いました。
この心理は恋愛でも働きます。
「いままで頑張ったから」「もう少しでいけるかも」と諦められず、脈なしの相手に時間やお金を投資し続けてしまう。
日向子はこの状態ではないのかな、と思いました。
そして孝はズルいですね。
承認欲求を日向子で満たす。時々優しくするだけで。日向子が離れていかないことがわかっていて。
大谷が店に来たあとって不思議と原稿がすすむんだよな、なんでだろ。
ずっと悩んでた部分が解決したりさ、タイトル思いついたりさ。なんだかな。
時々、あいつに何かしてやりたいって思うんだ。
引用:絲山秋子『袋小路の男』電子書籍P68
日向子もそうであるように、孝も日向子といるときはリラックスして、素でいられるのではないでしょうか。
だから原稿が進むのかと。
孝は日向子を都合よく利用するだけで、日向子はそれをわかっていて利用されている、と思っていました。
でも長い年月をかけて、孝にとっても日向子は大切で、必要な人間になったのかもしれません。
それは決して日向子が欲する恋ではありませんけど。
日向子は苦しいですけど、こういう関係もありだと私は思います。
「性」を超えた関係であるからこそ、長く続くし、尊く感じました。
「アーリオ オーリオ」
「アーリオ オーリオ」のあらすじ
松尾哲は、地方公務員で清掃工場のオペレーターの仕事をしている。
ある日兄の娘の美由をどこかに連れていくことになって、2人でプラネタリウムに行った。
元々星が好きで、時々友達と天体観測をしている哲と、星に興味を持った美由は文通をするようになる。
文通で美由と交流していくうちに、過去を振り返ったり、美由のために何かしたいと考えるようになったり、哲に変化が訪れる。
「アーリオ オーリオ」を読んだ感想
この話でどんな感想を書けばいいのか、と正直思いました。
おじさんと姪っ子の文通の話。
星や星座の話。
おじさんの終わった恋の話。
特に心を動かされることはなく、淡々と読む進めるのみでした。
そして、とにかく姪っ子の美由はかわいいと思いました。
心は動かされないけど、最後までスルスルと読み進められる不思議な物語でした。
最後に
2005年本屋大賞第4位と第30回川端康成文学賞を獲得した『袋小路の男』を紹介しました。
中年になってから読みましたので、こんな感想でしたが、10代20代の人が読むと全く違った感想になりそうな物語だと思いました。
まだ携帯電話のない時代の恋の話をぜひ読んでみてください。