この記事では、2005年本屋大賞の2位となり、第18回山本周五郎賞を受賞し映画化もされた萩原浩さんの『明日の記憶』を紹介します。
この作品は、50歳で若年性アルツハイマーと診断された男性の物語。
主人公と同年代である私は、とても他人事とは思えませんでした。
記憶をなくすことや人格が変わってしまうことの恐ろしさ、病気とどうやって折り合いをつけて生きていくのか、など主人公の葛藤が描かれています。
そんなこの本を読んだ感想を名言を紹介しながらまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『明日の記憶』について
タイトル | 明日の記憶 |
著者 | 萩原浩 |
出版社 | 光文社 |
発行日 | 2004年10月20日 |
ページ数 | 329P |
映画化されたこと、若年性アルツハイマーの話であることは知っていてこの本を読みました。
アルツハイマーという病気に希望を感じることは難しいですよね。
だんだん記憶がなくなっていき、身近な人のこともわからなくなり、終いには生きることも忘れてしまう、、、
主人公の葛藤に心が痛みましたが、主人公なりの生き方を見つけて、ただ暗いだけではない物語となっています。
躊躇している人にもぜひ読んでみてほしいです。
著者について
著者である萩原浩さんのプロフィールです。
埼玉県大宮市(現・さいたま市)出身。1980年、大学卒業後、広告代理店に入社、39歳のときに小説を書き始める。1997年、初めて書いた長編小説『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞し小説家デビュー。
2005年 – 『明日の記憶』で第2回本屋大賞第2位、第18回山本周五郎賞受賞。
2014年 – 『二千七百の夏と冬』で第5回山田風太郎賞受賞。
2016年 – 『海の見える理髪店』で第155回直木三十五賞受賞。
2024年 – 『笑う森』で第19回中央公論文芸賞受賞。
私は著者の作品は、今回紹介している本しか読んだことはありませんが、現実に即した物語を書く作家さんだという印象を受けました。
え?そんな小説みたいな、、、と引いてしまうようなところが1つもなかったです。
あまりにリアルで主人公に共感しまくりました。
と同時に、アルツハイマーと診断された苦しみも主人公と一緒に味わうことになりました。
『明日の記憶』のあらすじ
広告代理店で営業部長をしている佐伯は、ここのところ物忘れがひどくなったことを自覚するようになった。
夜に眠れないことが続いて、睡眠導入剤を処方してもらうために病院を受診する。
病院で思った以上に様々な検査を受け、結果「若年性アルツハイマー」と診断される。
佐伯の父が患った病気であったため、どのような経緯をたどるのか予想できた佐伯はショックを受ける。
見どころ
今まで普通にできていたことができなくなっていくことを受け入れて、病気と付き合いながら今後の生き方に到達するところが見どころになります。
『明日の記憶』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍を専用リーダーで読むようにしてから、目が疲れなくて読書が楽ちんになりました。
『明日の記憶』の名言と感想
それでは、本作品を読んだ感想と名言を紹介していきます。
この体は預かりもの
かつては自分の体は自分のものだった。しかし、だんだん自分の体に裏切られることが多くなってきた。
この体は本当は自分のものではなく、誰かからの預かりものではないのだろうかと思えてくる。
引用:萩原浩『明日の記憶』
今までできていたことができなくなることは、想像以上にショックを受けるものだと思いました。
私も年齢とともにそのようなことが増えてきて、自分がやったことだと思えない、だれかがやった?と人のせいにしたくなることが何回もありました。
まして、佐伯は部長という立場です。
プライドもあります。
相手の名前を間違ってしまう、約束したこと自体を忘れてしまう、何度も行っている場所なのに道に迷うようになる、、、
仕事でありえないミスをしてしまうことは、耐えがたいことですよね。
思い通りにいかない体を自分のものと思えなくなる気持ちは、何となくわかるような気がしました。
忘れるのは脳の活性化
人がものを忘れるのは、脳を活性化させるためである。
人は忘れることによって情報を取捨選択し、頭脳を新陳代謝させる。
忘れることがなければ、幸福も希望もない。
引用:萩原浩『明日の記憶』
細かーいことまで、ずっと忘れられないでいたとしたら、きっと気が狂ってしまうでしょうね。
恥ずかしかったこと、辛かったこと、悲しかったこと、、、
忘れるからこそ幸福も希望もある。
忘れることを悪いことと思うのは違うということだと思いました。
生きられるだけ生きる
なぜ生きるか、どう生きるべきか、人生の意味は? 生と死とは? ――人の命はそんな疑問や懊悩とはまったく無関係に生まれ、翻弄され、そして消える。
人の肉体はなぜ生きているのかなんて考えてはいない。心と心臓は別の場所にあり、脳は精神の苦悩とは無慈悲なほど無縁に、ひたすら機能的に動いている。
(中略)
しかたない。生きられるだけ生きよう。
引用:萩原浩『明日の記憶』
アルツハイマーになって辛いことは、自分が苦しむことよりも周りの人が大変になることですね。
出かけては迷って戻れなくなる、被害妄想や感情を抑えられなくなり暴力を振るう、1人では何もできなくなるなど。
なぜ生きるのか、そんなになっても生きる意味はあるのか、と考えるのは自然なことと思います。
でも、、、
そんな悩みとは関係なく人間の肉体は生きている。心臓は勝手に動いている。
ならば、、、
生きられるだけ生きよう、に佐伯はたどり着きました。
ただ、本人も周りにとってもいばらの道には変わりありませんね、、、
記憶が消えても、私が過ごしてきた日々が消えるわけじゃない
記憶が消えても、私が過ごしてきた日々が消えるわけじゃない。
私が失った記憶は、私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っている。
引用:萩原浩『明日の記憶』
この本を読みながら、記憶が抜け落ちていく怖さをひしひしと感じることができました。
自分が自分じゃなくなっていく怖さといいますか。
でも、自分がいたこと、過ごした日々がなくなるわけではない。
失わないものもあるということは、ほんのわずかですが希望になるのかなと思いました。
最後に
2005年本屋大賞の2位となり、第18回山本周五郎賞を受賞し映画化もされた萩原浩さんの『明日の記憶』を紹介しました。
アルツハイマーと診断された人の葛藤が描かれています。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
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