この記事では、2024年本屋大賞6位となった川上未映子さんの『黄色い家』を紹介します。
まともな人、まともな生活ってどういうものでしょうか。
この作品は、身分証もない、安全な場所もない、現金だけが頼りという 不安定で“まともな人”から外れた人の現実が描かれています。
私自身、貧乏な家に生まれ育ち、周りの人と比べて普通ではないと思ってきました。
でも、もっともっと過酷な環境にいる人がいて、どんな気持ちで生きているのかを知ることができました。
そんな『黄色い家』を読んだ感想をまとめましたので、ぜひ最後まで読んでください。
『黄色い家』という本について
タイトル | 黄色い家 |
著者 | 川上未映子 |
出版社 | 中央公論新社 |
発行日 | 2023年2月20日 |
ページ数 | 571P(電子書籍) |
なかなかのボリュームがありました。
読む進める先に希望がありそうな予感がしないために、サクサク読めた、という感じではありませんでした。
ですが、ラストは一気に話が進んでいき、読み終わった後は、最後まで読んで良かったと思いました。
知らない世界のことを知ることができたからです。
著者について
著者である川上未映子さんのプロフィールです。
『ヘヴン』で2010年本屋大賞第6位、『夏物語』で2020年本屋大賞第7位を獲得しています。
いろんな賞を受賞されている作家さんですね。
元歌手というのも驚きました。
天は二物以上を与えるものなのですね。
『黄色い家』のあらすじ
2020年春、惣菜店で働く花はある事件のニュース記事を見て、ドキリとする。
そこには犯人として、黄美子の名前があった。
忘れていたはずが、全く忘れていなかった20年前の記憶。
花は黄美子や少女たちと共同生活を送ったことがあった。
見どころ
私が思う本作品の見どころは次の通りです。
花の思考が細かく描写されているため、どういう考えでそのような行動に至ったのかがよくわかります。
事実の裏側にある葛藤や真実も見どころです。
『黄色い家』を読んだ感想
それでは本作品を読んでみた感想を述べていきます。
結末には触れていませんが、ネタバレがあります。
まだ読んでいない人はご注意くださいませ。
生き方で顔が変わる
どんな生き方をしているかで、人の顔って変わりますよね。
生き方が顔に出るというか。
トロスケは思いだしたようにカーッと喉を鳴らすと、道路にぺっと痰を吐き捨てた。
「それにしても見ためかわりすぎだろ。昔はもっとこう……普通の顔してただろ」
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P520
花の母親の恋人だったトロスケ。
5年ぶりくらいに会ったときに、花が言われた言葉です。
とにかくずっとお金のことを考えて、犯罪にまで手を染めた花は、普通の顔ではなくなっていたんですね。
人に意地悪をしていれば意地悪な顔になるし、親切にしていたら優しい顔になる。
自分はどのような顔をしているのか、自分では気づきにくいので、心配になりました。
誰かがいないと生きていけないということはない
恋愛ではよく、「あなたがいないと生きていけない」なんてことを言ったりしますね。
でも、キッパリ言いますけど、実際は特定の誰かがいないと生きていけない、なんてことはありません。
そう、黄美子さんはひとりでは生きていけない──黄美子さんには、わたしが必要だった
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P491
花は、黄美子さんが自分がいないと生きていけないと思い込んで、一人で背負ってしまいます。
花に会うまでは、一人で生きていたのも忘れて。
なんとかしなければならない。わたしがなんとかしなければ。
わたしは一日じゅうその考えにとらわれるようになっていった。
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P403
確かに頼りないところや不安定なところがあるので、誰かの助けがあった方がいいかもしれない。
でも花でなければならない理由はないのです。家族でもありませんし。
花が、黄美子さんとずっと一緒にいたかった。
黄美子さんに、花がいないと生きていけないと思ってほしかった。
その思いの強さが、自分がいないとだめだという考えになったのかなと思いました。
何をもってまともだと言うのか
本作品を読んでいて、何をもってまともだと言うのか、
自分は果たしてまともなのだろうか、と考えてしまいました。
いいんだ。わたしには金があるから。
いつも誰かに守られて呑気に生きてる、ここにいるあんたらの誰よりわたしは金をもってるんだ。
自分で稼いで自分で手に入れた自分の金を――そう思うと気持ちが少し鎮まった
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P460
外に出ると見かける楽しそうにしている人たち。
花は、自分で稼いだ金を持っていることで、揺らぐ心を落ち着かせた。
誰かに守られて呑気に生きてる人、まだ未成年なのに自分でお金を稼いでいる人、どちらがまともなのでしょうか。
つまり今日を生きて明日もそのつづきを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろう。
そういう人たちがまともな仕事についてまともな金を稼いでいることは知っている。
でもわたしがわからなかったのはその人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手に入れたのかということだった。
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P403
自分がまともな世界に生きているとして、どうやってその資格を得たのか考えてみましたが、わかりませんでした。
では花はどうすればまともに生きる資格を手に入れられたのか。
花が高校を卒業していたら変わっていたでしょうか。
中卒よりは仕事もあり、給料も違ったでしょう。
学歴の問題だけでしょうか。
周りにまともな大人がいれば、違っていたとは思います。
でも同じような環境にいても、犯罪を犯す人ばかりではないような気もします。
1つ歯車が狂うと、どんどん加速していき、悪い方悪い方に向かってしまった。
花自身の思考の仕方と、周りの大人の影響が大きかったのではないかと私は思いました。
幸せな人間っていうのは、たしかにいるんだよ。
でもそれは金があるから、仕事があるから、幸せなんじゃないよ。あいつらは、考えないから幸せなんだよ
引用:川上未映子『黄色い家』電子書籍P352
「あいつら」は生まれながらにお金を持っている人のこと。
考えないから幸せ、というのは周りの人たちを見て思うことが度々あります。
お金のあるなしに関わらず、いろんなことに気がついたり、心配したりする人より、何にも気づかず、考えない人の方が幸せで生きやすいのではないか。
考える人と考えない人、どちらがまともなのか。
考える人の方がまとものような気がしますけど、まともな人は幸せではない。
ではまともになる必要があるだろうか、と答えの出ない問いをグルグルしてしまいました。
最後に
2024年本屋大賞6位となった川上未映子さんの『黄色い家』を紹介しました。
日頃関わることのない、知らない世界で生きている人のことを知ることができます。
まだ読んでいない人は読んでみてください。
『黄色い家』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて、ストレスが少なくなりますよ。
2024年本屋大賞ノミネート作品をまとめた記事があります。
ぜひ合わせてご覧ください。