この記事では、2016年本屋大賞第5位となった辻村深月さんの『朝が来る』を紹介します。
子どもをもつ方法としては、結婚して子どもを産むのが一般的ですよね。
でも誰もが子どもを産めるわけではありません。
産めない場合の選択肢として「養子」をもらう、というのがあります。
『朝が来る』は、生まれたばかりの赤ちゃんを引き取る「特別養子縁組」で子どもをもった養親と、赤ちゃんを産んだ実親の物語です。
血のつながりや家族、親とは何なのか。
そして親との関係が子どもに与える影響について考えさせられます。
そんなこの本を読んだ私の感想をまとめました。
ぜひ最後までお読みいただき、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『朝が来る』について
タイトル | 朝が来る |
著者 | 辻村深月 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2015年6月15日 |
ページ数 | 319P(電子書籍) |
『朝が来る』は、2016年本屋大賞第5位を獲得し、映画化もされています。
この本が1位ではなく5位ってことに驚き、ランキングを確認してみました。
このブログでも紹介している、中島初枝さんの『世界の果てのこどもたち』が第3位、西川美和さんの『永い言い訳』が第4位に選ばれています。
私の好きな本がたくさん選ばれている年だったようで、嬉しく思いました。
著者について
著者である辻村深月さんのプロフィールです。
- 山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒。
- 2004年 『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞受賞
- 2010年 『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞受賞
- 2012年 『鍵のない夢を見る』 第147回直木賞受賞
- 2013年 『島はぼくらと』で埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2013[第1位]
- 2015年 『朝が来る』で第4回静岡書店大賞[小説部門]
- 2017年 『かがみの孤城』でブランチBOOK大賞2017、埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2017[第1位]
- 2018年 『かがみの孤城』で第15回2018年本屋大賞受、第6回ブクログ大賞[小説部門]受賞
数々の受賞歴がある作家さんですね。
辻村さんの本は、『善良と傲慢』を読んだことがあります。
人間の心理を鋭くえぐり、しばらく余韻に浸らせる作品でした。
まだまだほかの作品も読んでみたいと思わせる一押しの作家さんです。
『朝が来る』のあらすじ
佐都子と清和は不妊治療を頑張ったが子どもを授かることができず、 特別養子縁組で子ども(朝斗)を引き取り大事に育てていた。
朝斗が6歳になったある日、朝斗を産んだ母ひかりを名乗る女性から電話がきて 「子どもを返して欲しい」と言われる。
佐都子はひかりと名乗る女性に会うことにした。
見どころ
この本は、養親である佐都子と、実親であるひかりの、それぞれの視点からの物語で構成されています。
養子縁組を選択するまでの佐都子の苦悩。
出産前と出産後のひかりの葛藤。
同じように血のつながる親との関係に苦しむ二人の姿。
そして、朝斗によって結ばれた二人の母の関係、が見どころになります。
電子書籍で読むならkindleがおすすめ『朝が来る』を読んだ感想
それでは、これから『朝が来る』を読んでみた感想を述べていきたいと思います。
佐都子と清和の不妊治療の話が辛かった
ショックと、痛み。衝撃と、動揺。そして、落ち込み。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P82
不妊治療のときに起きる感情を佐都子はこのように表現しています。
佐都子の夫清和は無精子症でした。
幸い顕微授精はできるということで挑戦していましたが・・・
顕微授精に至るまでにも二人はさんざん心も体も痛い思いをしてきました。
だからといって報われるというものではないんですよね。
佐都子の苦しみ、清和の葛藤に、読んでいて胸が苦しくなりました。
二人は、不妊治療をやめる決断をします。
話しながら、そういえば、ここ数年、自分たちは心の底から食事を楽しんだことがあったろうか、と思う。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P85
「ごめん」と声がした。
あわてて、顔を覗きこもうとする。清和が続けて言った。
「もっと早く、やめたいって言えなくて、ごめん」
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P86
いい旦那さんだなぁと思いました。
不妊の原因は女性だと思われがちで、男性にとっては他人事だったりしますよね。
清和もはじめはそんな感じも見られましたが、一緒に病院に行き、検査を受けてくれました。
そして一緒に治療を進めて、一緒に痛みを共有してきました。
もうやめよう、と決めて、二人で寄り添って泣く姿に、二人の絆の深さを感じました。
実母との関係に苦しむ二人に共感した
佐都子もひかりも、血のつながった母親との関係に苦しみます。
私も血のつながっているはずの母親とはうまくいかなかったので、二人の気持ちに共感しまくりでした。
実母にいわれ、怒鳴り返したい衝動を必死にこらえた。血がつながってさえいれば、育児は思い通りになるのか、だたそれだけで問答無用にわかり合えると考えることは、傲慢ではないのか。
(中略)
血のつながりに甘えたからこそ、自分たちは大事なことを言葉で話し合ってこなかった親子だった。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P117
佐都子は、特別養子縁組で子どもを迎えることを理解してもらおうとしましたが、なかなか・・・
今まで大事なことを話してこなかったのに、この時だけちゃんと話ができるなんてことはないんですよね。
血のつながった実の親と喧嘩のような話し合いをしながら、家族は、努力して築くものなのだと、思い知る。
血のつながりがあるからといって怠慢になっていては築けない関係を、自分たちが出会ったあの家族は、懸命に作ろうとしているように見えた。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P117
特別養子縁組を斡旋する団体「ベビーバトン」の説明会では、すでに養子縁組を済ませた“先輩たち”の家族が来ていて、話を聞けました。
どこからどう見ても普通の家族。
家族は努力して築くもの。という言葉が心に沁みます。
そして朝斗を産んだ母ひかりも。
セックスはおろか、好きな男子の話すらできる雰囲気がなかったこの母との間で、巧のことはひかりが最後の切り札のように大事に守ってきた秘密だった。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P173
ひかりの両親は教員をしていて、家の中では男子の話題など出せる雰囲気ではない“潔癖”な家でした。
家族って、親戚て、なんだ。私はいつになったら、この人たちの家族や親戚をやめられるのか。いつまでこの母の娘でいればいいのか。
心配している、というただそれだけの言葉で、すべてが許されてしまうのか。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P227
自分のことを思って言ってくれているのかどうかは伝わります。
ひかりの両親は、教員ということもあって「失敗しない」娘であることを強要してきた。
あんな形で復讐してしまった気持ちもわからなくはない。
でももっと大人になるまで待てれば、ひかりの人生は全く違ったものになっていただろう、と思いました。
性教育の大切さを学べる本だと思った
私がこの本で一番衝撃を受けた言葉です。
兄ちゃんからも言われたけど、中絶って、女の方が体の痛みはあるかもしんないけど、それがない分、精神的な苦痛は男の方がもっとだよな。
オレ、何度も自分のこと人間失格だって思った。お前のそばにいる資格ないよ。
引用:辻村深月『朝が来る』電子書籍P218
こんな言葉を本気で言っているのか、と怒りに震えました。
大きな声では言えないですけど、私は中絶の経験があります。
30年くらいたった今でも、その時の気持ちや体の痛みは鮮明に思い出せます。
その時のことを忘れたことはありません。
このように言った巧は、すぐに次の彼女を見つけました。
そして、心の中にはずっと残ってはいるのかもしれませんが、「なかったのと同じ」人生を歩むことができます。
でもひかりはそうではありません。
ひかりの人生は変わってしまいました。「元通り」になんてならない。
この物語から、十代の若い女性には知ってもらいたい。
女性は逃げられないけど、男性は逃げることができる、ということを。
自分の体、自分の人生を守るのは自分だということを。
ひかりのように、男子の話題すら出せない雰囲気の家庭ではなく、家庭でしっかりと話ができて、教育することが大事だと思いました。
最後に
2016年本屋大賞第5位を獲得した『朝が来る』の感想を述べてきました。
特別養子縁組を知るきっかけになる本であり、性教育の大切さを感じる本でもあります。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
辻村深月さんの本は『かがみの孤城』もおすすめです。
気になった人は、ぜひ合わせてご覧ください。