今回は、第163回直木賞候補となった『銀花の蔵』遠田潤子著を紹介します。
「銀花」というのは主人公の名前です。きれいで素敵な名前ですね。
きれいな名前とは裏腹に、これでもかというぐらい苦難が襲いかかります。
苦難を乗り越え、我慢強く生きた女性の一代記です。
銀花に共感し、銀花と一緒に苦難を乗り越え、大河ドラマを1本見終えたような読後感を味わえます。
そんな『銀花の蔵』という本についてまとめましたので、参考にしていただけたら幸いです。
『銀花の蔵』について
タイトル | 銀花の蔵 |
著者 | 遠田潤子 |
出版社 | 新潮社 |
発行日 | 2020年4月24日 |
この本は、第163回直木賞の候補作に選ばれています。
食事やトイレの時間も惜しいほど、夢中になって読みました!
著者について
- 遠田潤子
- 大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒。2009年に「月桃夜」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し作家デビュー。
- 2009年 第21回日本ファンタジーノベル大賞「月桃夜」
- 2012年 第15回大藪春彦賞候補『アンチェルの蝶』
- 2017年 第1回未来屋小説大賞『冬雷』
- 2018年 第71回日本推理作家協会賞候補[長編および連作短編集部門]『冬雷』
- 2019年 第22回大藪春彦賞候補『ドライブインまほろば』
- 2020年 第163回直木賞候補『銀花の蔵』
数々の賞にノミネート・受賞されている作家さんですね。
遠田潤子さんの本を読んだのは『銀花の蔵』が初めてでしたが、他の本も読んでみたいと思いました。
あらすじ
美人で料理上手な母(美乃里)と、絵を描くのが好きで写生旅行にいっては素敵なお土産を買ってくる父(尚孝)を持つ山尾銀花。
銀花が小学校4年生のとき、父が実家の醤油蔵を継ぐため、奈良県橿原市に引っ越すことになる。
父の実家には厳しい祖母の多鶴子と、父の妹で銀花の1歳年上の桜子が住んでいた。
そこから銀花の波乱万丈な人生が始まっていく。
見どころ
銀花の少女時代から祖母になるまでが描かれています。
銀花に襲いかかる数々の苦難。
そして銀花をはじめ、おもな登場人物の誰もが“罪”を負い、“罪“に苦しみます。
“罪“とどう向き合い、折り合いをつけて生きていくのか、その葛藤が見どころの一つです。
また、血縁によらない家族の在り方について描かれています。
由緒ある醤油蔵だからこそ血縁にこだわる。でも血縁がすべてではないことがわかります。
『銀花の蔵』を読んだ感想
この本を読んだ私の感想をまとめました。
罪は一生消えない
物語には、犯罪である罪と犯罪ではない罪が出てきます。
銀花、父、母、多鶴子、多鶴子の母、剛(蔵の杜氏の息子)、桜子。
それぞれが罪を負います。
犯罪であり公になった罪は一生消えません。
では犯罪でも公になっていない罪、犯罪ではない罪はどうでしょうか。
自分の存在、自分の失敗、自分の行為によって人の人生が変わってしまったとしたら・・・
それを「済んだこと」として忘れることができるでしょうか。
他人から見たら、そんなの罪じゃないよと言うかもしれません。
でも本人は、あの時こうしていたらと事あるごとに思い出して、自責の念に駆られるでしょう。
その罪も一生消えることはありません。
罪というのは、大きさにかかわらず誰もが持っていると思います。
でも罪に苦しんだ経験があるから、人の気持ちがわかる人間になれるのだと思いました。
私も心の中で「ごめんなさい」を言い続けています。
家族とは
次々に家族の秘密が明かされていきます。
あまりにもいろいろありすぎて、そこは小説の世界だからなぁと思いました。
山尾家は由緒ある代々受け継がれている醤油蔵です。
後継ぎを血縁にこだわっていたら、醤油蔵を閉めるしかなかったでしょう。
血縁者だからって醤油造りができるわけではない。
経理や営業ができるわけではない。
能力の問題もあり、やる気の問題もあります。
血のつながりがなくても立派な家族であり、後を継ぐのは資質や志が大事だと思いました。
それと私は登場した時から多鶴子さんがとても気になりました。
厳しくて笑うことのない人ですが、根は優しく、誰よりも家族を大事にする人でした。
多鶴子さんの生い立ち、苦労、罪、家業のために諦めたこと、厳しくならざるを得ない状況に共感したり胸が痛んだりしました。
この物語で私の心に一番残った人でした。
「かわいそう」
この物語の中に随所に出てくるキーワードの一つに「かわいそう」という言葉があります。
銀花の母は、父に「かわいそう」と言われて結婚し、
「かわいそう」と言われながら一生父に守られます。
一方銀花は「かわいそう」と言われたくない、同情されたくない。
私も銀花と同じように「かわいそう」と言われたくない派です。
「かわいそう」と言われれるのが嫌でない銀花の母のような人が、女性らしくて男性に可愛がられて上手くいくのでしょうね。
銀花の母も桜子も女の武器を最大限に活用して生きています。意識してか無意識かは別として。
私はそのような生き方はできないし、したくもない。かわいくない女です。
だから夫婦生活がうまくいかないのかなと思いました。
銀花は、いろいろな経験をして歳を重ねていき、「かわいそう」に対する考えに変化が起きます。
残念ながら私はまだその境地には至っていないようです。
「かわいそう」と口に出さないで、相手に共感し手を差し伸べられる人間でありたいとは思います。
まとめ
第163回直木賞候補となった『銀花の蔵』を紹介しました。
生きていればいいことも悪いことも、思い通りにいかないことも、人に迷惑かけることも、人から助けられることもたくさんあります。
その繰り返しが人生です。
「山尾銀花」という女性の物語は、自分の生き方を考えるきっかけになりました。
興味を持って下さった方はぜひ読んでみてください。