今回紹介するのは、第131回直木賞受賞作で奥田英朗さんが書いた「空中ブランコ」です。
私はお医者さんが主人公の話は好きでよく読みます。
その中でも「空中ブランコ」の主人公で、精神科医の伊良部一郎は特に印象に残りました。
患者さんの苦しみもわかるし共感できる、
伊良部先生の人柄と治療にクスッと笑える、
最後はあー良かったなぁと思える、そんな本です。
5話収録されていますので、まとまった読書の時間が取れない人も、区切りのいいところでやめられるのでおススメです。
本の紹介
タイトル | 空中ブランコ |
著者 | 奥田英朗 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2008年1月10日 |
「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5編が収録されています。
どの話も、タイトルを見ればどんな患者さんで、どうやって治していったのかを鮮明に思い出せるほど記憶に残っています。
何かに行き詰っているとき、クスっと笑えて心が軽くなる、息抜きにもぴったりの本ですよ。
著者について
- 奥田英朗
- 1959年10月23日生まれ
- 広告プランナーなどを経て、出版社に持ち込んだ『ウランバーナの森』(1997年)でデビュー。
- 2002年 – 第4回大藪春彦賞『邪魔』
- 2004年 – 第131回直木三十五賞『空中ブランコ』
- 2007年 – 第20回柴田錬三郎賞『家日和』
- 2009年 – 第43回吉川英治文学賞『オリンピックの身代金』
奥田英朗さんは数々の受賞歴がある作家ですね。
私は「空中ブランコ」しか読んだことがありませんが、他の受賞作も読んでみたくなりました。
みどころ
一風変わった精神科医の伊良部一郎が、普通の医師とは違う方法で患者を救っていきます。
ぶっ飛んではいますが、伊良部が言う「この病気は〇〇が原因なのでこうすればいい」に、患者は思い当たることがあって納得。
「こうすればいい」を具体的にやる方法が、え?そうするの?とびっくりで面白いです。
各編のあらすじと感想
空中ブランコ
新しい人が入ってきたときに壁を作ってしまうことはよくありますね。
その人が早々に周りの人と打ち解けたりすると、何だか気に入らないと思ってしまったり。
公平は疑心暗鬼になって、自分がうまくいかないことを新人のせいにして、心を閉ざしてしまいました。
対話をしてみると、相手がそんな悪い人でないことがわかります。
相手を信頼して任せることができれば、余計な力がかかることなく、うまくいくようになる。
嫉妬や疑心暗鬼、被害妄想など良くない感情は、体に余計な力がかかることになって、体も心も固くなってしまうんだなと思いました。
私も伊良部先生の空中ブランコを見てみたいと思いました!
ハリネズミ
やくざというのはいつも相手を威嚇していないといけない。
でも伊良部と看護師のマユミは誠司をまったく怖がりません。
怖がらせてなんぼなので、怖がらない相手に調子が狂ってしまう。
それなのに、なぜか足が伊良部のもとへ行ってしまう。
いつもいつも威嚇しているというのは、自分に負担がかかっていたんですね。
だから威嚇が通じない相手には威嚇する必要がなく、ホッとするんだと思いました。
本当は威嚇したいわけではない、弱いところがあるから突っ張ってるんだと自覚する。
そして自分に向きあうことができれば、心の負担が軽くなるんだと思いました。
やくざも同じように弱い心を持つ人間なんですね。
義父のヅラ
もうタイトルからして、面白い話なのが想像できます。(ヅラの方ごめんなさい<m(__)m>)
破壊行動をとりたくなるのは、無意識の抑圧あるから。
達郎の妻の実家は、食事の時にワインが出てきて、オペラの話をするような家です。
話も合わないし、失敗しないようにいつも緊張している状態。
自分を抑圧しすぎると、反動で極端な行動に出たくなるんですね。ヅラを剥がすとか。
抑圧しなくていい、いつもの自分でいられる、言いたいこと言ってリラックスできる場所が必要なんですね。
治療という名の“いたずら”をわたしもやってみたい!治療してほしい!と思いました。
ホットコーナー
ずっとトップにいて挫折を知らないでいると、その地位が脅かされたとき正常でいられなくなる。
対抗意識や嫉妬、地位を失うかもしれない恐怖でガチガチになってしまうんですね。
無心になって楽しめる、心の余裕があることが大事なんだと思いました。
いくつになっても童心に帰るというのは必要なのかもですね。
女流作家
売れる本と書きたい本が一致するのが一番いいです。
でも一致しない場合、売れるために書きたいものではないものを書かざるを得ない状態になってしまう。
自分に嘘をついていると苦しくなるんですね。
しかも愚痴を言ったり、弱みを見せられる相手もいない。
だからいつも気を張って攻撃的になってしまう。
自分を守ろうとして守れていません。
自分のことに意識が向いていっぱいいっぱいになると、視野が狭くなりますね。
自分だけ不幸な気がしてくる。でも世間に目を向ければ、もっと大変な人はたくさんいます。
疲れてしまった時や行き詰ったときは、ちょっと休んでみるのが一番。
海や山など自然の中に行ってみると、自分なんてちっぽけで、悩みなんてたかが知れてると思えます。
あとは運動するのもいいですよね。体を動かして汗をかくと、心もスッキリします。
私は以前サークルに入って、山登りをしていました。
サークル員には、医療職・介護職の人が多かったです。
ストレスの多い仕事をしている人は、山に登りたくなるのかなと思っていました。
山に登ることによってバランスを保っていたんですね。
愚痴を誰かに話す、山に登る、ひたすら寝る、でも何でもいい。
自分なりの心のバランスをとる方法を見つけておくことが、行き詰らないために必要なんだと思いました。
いつも無表情でぶっとい注射をうつ看護師のマユミちゃん。
最後はマユミちゃんの人間らしい一面が見れて、ホロリとしました。
まとめ
「空中ブランコ」の5編通して思ったことは、自分の心に無理がかかりすぎると、体に余計な力が入って、不具合が出てくるということです。
自分を守るために壁を作ったり、威嚇したり、攻撃したり、力を入れるのではなく、力を抜いて開放すること。
自分はどうしたいのか、何が苦しいのか、原因は何か、心の声を聴くことが大切なんだと思いました。
「空中ブランコ」はサクッと読めますし、自分も伊良部先生に救われた気分になれます。
まだ読んでない人はぜひ読んでみてください。
直木賞受賞作が好きな人や興味がある人はこちらもおススメです。