この記事では、第167回直木賞の候補となった永井紗耶子さんの『女人入眼』を紹介します。
鎌倉幕府が成立して間もない頃の物語。
男性は武力で戦う、では女性はどうでしょうか。戦わないのでしょうか。
男性とは戦い方が違うだけで、女性には女性の戦い方がありますね。
誰もが知る鎌倉の女主北条政子、政子の娘大姫、京から鎌倉に派遣された周子など。
登場する様々な女性たちの命を懸けた戦いの物語を読んで、のほほんと生きている自分に喝を入れられた気がしました。
そんなこの本を読んだ感想をまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『女人入眼』について
タイトル | 女人入眼 |
著者 | 永井紗耶子 |
出版社 | 中央公論新社 |
発行日 | 2022年4月7日 |
ページ数 | 307P |
「女人入眼」は「にょにんじゅげん」と読みます。
初めて聞いた言葉でした。
関白九条兼実の弟慈円の言ったことが、この言葉のもとになります。
仏は眼が入らねばただの木偶でございます。眼が入って初めて仏となるのです。
男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ。言うなれば、女人入眼でございます。
引用:永井紗耶子『女人入眼』電子書籍P15
男たちの戦いで鎌倉幕府が成った。その仕上げをするのは女性だと慈円は言ったのです。
果たしてその女性が誰なのかは、この物語の最後にわかります。
著者について
著者である永井紗耶子さんのプロフィールです。
時代小説の作家さんですね。
直木賞を受賞した『木挽町のあだ討ち』も読みましたが、どちらも心を動かされた忘れられない本で、私の好きな時代小説家さんの一人になりました。
これからも永井さんの作品は、要チェックです。
『木挽町のあだ討ち』の紹介記事があります。
気になった人はぜひ合わせてご覧ください。
『女人入眼』のあらすじ
六条殿の丹後局に仕える女房である衛門(周子)は、源頼朝と政子の長女大姫を入内される準備のため、鎌倉に行くように命じられる。
いざ鎌倉で大姫に会ってみると、いつも目がうつろで表情がなく、話すことすらままならない状態で、とても入内の話を進められる状況ではない。
何とか突破口がないか周囲の人から話を聞くうちに、大姫がそんな生き方になった経緯を知り、周子は何とか救う方法はないかと考え始める。
見どころ
自分の見聞を広めるため、国のため、母のために鎌倉に行った周子が、大姫のことを知り、交流するうちにだんだん変わっていくところが見どころになります。
そして、京には京の、鎌倉には鎌倉のドロドロとした権力争いも見どころです。
『女人入眼』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍でも読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんですよ。
『女人入眼』を読んだ感想
それでは、本作品を読んだ感想を述べていきたいと思います。
女たちの戦い方に震えた
様々な女性たちの戦いが出てきましたが、男顔負けの戦いに震えました。
特に印象に残ったのは次の人たち。
内裏の女性たちは、内裏に入っただけではだめで、帝の寵愛を他の姫君と競います。
そして皇子を産めるかどうかで、実家や後見人の力関係が変わってくるのです。
自分だけの戦いではない。政の主導権争いにも及びます。
そして、最も恐ろしいと思ったのは、妊娠すると呪詛がかけられること。
そこまでして、、、
一番恐ろしいのは人だと言った周子の言葉に同感です。
周子の上司である丹後局は、亡き後白河院の寵姫で、政治的な権力も持っており、関白九条兼実と争っていました。
丹後局は、力が1か所に集まりすぎないことで世が泰平になると考える人です。
「政に情は要らない」
まるで碁石のように、人を配置し操ろうとします。
碁石にされた方は、たまったものではないですね、、、
権力のためには、人を人とも思わない采配に震えました。
北条政子は、自分の情だけで動き、自分の思い通りにさせようとする強い女性でした。
「しかし、あの御方は過たない。何故、過たないかご存知ですか」
周子は分からずに首を傾げた。
「過ちを認めず、誰かの責にするからです。」
引用:永井紗耶子『女人入眼』電子書籍P186
過ちを認めず、すべては人のせい。
こういう人は強いですね。理屈なんて通りません。
思い知ったであろう。黙らせ、従わせ、心を折るためならば何でもする。己の娘にも同じような真似をするから、こうなっているのではないか。
引用:永井紗耶子『女人入眼』電子書籍P275
頼朝の命令さえも覆すため、鎌倉の武士たちは、頼朝と政子の両方の顔色をうかがわなければならない状態に。
でも政子の圧倒的な強さによって、鎌倉がまとまったのは確かなので、何が善で何が悪なのかは一概に言えないとも思いました。
これらの女性に比べて、周子のように情があって優しい女性は、権力争いの中にはいられないのでしょう。
男性とは戦い方が違うと言っても、すべての女性が戦えるわけではないのだとと思いました。
大姫の深い悲しみに涙が出た
大姫の最初の印象は良くありませんでした。
でもたかだか10代の大姫の、内にある深い悲しみを知って涙が出ました。
深い悲しみの理由が、義高への罪業と政子に偏愛されたこと。
死者を懐かしみ悼む心は、悲しみは残れどもやがて癒えていく。
しかし、その死に対する罪業や悔いは、思い返すごとに己を貫く刃となる。
引用:永井紗耶子『女人入眼』電子書籍P184
許嫁であり、優しかった木曽義高は、大姫との縁があったために殺された。と大姫は思っている。
亡くなって悲しい、寂しいだけではない。
そして大姫が泣くと、「泣かせた誰か」を見つけ出して政子が殺してしまう。
なので泣くこともできない。
「大姫自らが望むか、望まぬかなど、どうでもよい」 政子が言い放った一言が全てだ。
母であり、御台所であり、この鎌倉に君臨する女主である。
政子に愛されたことが大姫の不幸とは、何という皮肉であろう。
引用:永井紗耶子『女人入眼』電子書籍P270
政子のように、自分が正しいと思う道が絶対子どものためになると思って、子どもの意思に関係なく思い通りにさせようとする親っていますよね。
ただ政子は鎌倉の女主なので、反対する人を殺すことも簡単です。
なので、政子に逆らわず、周囲の人に危害が及ばないように心を閉ざすしかない大姫が可愛そうで仕方ありませんでした。
まだ10代なのに、そんな風にしか生きられないなんて、、、
最後に
第167回直木賞の候補になった永井紗耶子さんの『女人入眼』を紹介しました。
鎌倉時代の女性たちの生き様を知って、自分ならどういう生き方戦い方をするのかを考えてみるのはいかがでしょうか。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
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