この記事では、第166回直木賞にノミネートされた彩瀬まるさんの作品『新しい星』を紹介します。
この本は、大学時代、合気道部の同期だった男女4人の物語。
子どもが亡くなったり、離婚したり、ガンになったり、パワハラに合い引きこもりになったり、、、
生きていれば誰だっていろいろとある。
でも悪いことばかりではないよ、希望もあるよ、と教えてくれる物語です。
そんなこの本を読んだ感想を、この記事でまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『新しい星』について

タイトル | 新しい星 |
著者 | 彩瀬まる |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2021年11月24日 |
ページ数 | 191P(電子書籍) |
この本は、大学時代の合気道部の同期生である青子、茅乃、玄也、卓馬の4人が、アラサーで再開してから数年間のお話です。
次の8編が収録された連作短編集になっています。
- 「新しい星」
- 「海のかけら」
- 「蝶々ふわり」
- 「温まるロボット」
- 「サタディ・ドライブ」
- 「月がふたつ」
- 「ひとやすみ」
- 「ぼくの銀河」
1編が短いので、まとまった読書時間が取りにくい人には、ありがたいですね。
区切りまで読みやすいです。
著者について
著者である彩瀬まるさんのプロフィールです。
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒。2010年「花に眩む」で女による女のためのR‐18文学賞読者賞を受賞しデビュー。
2016年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、
2017年『くちなし』で直木賞候補、2018年同作で高校生直木賞受賞。
2019年『森があふれる』で織田作之助賞候補。
他の著書に『不在』『さいはての家』『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』『川のほとりで羽化するぼくら』など。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
彩瀬さんの作品は初めて読みました。
辛い話も重くなりすぎず、人の優しさや希望を感じられる物語を生み出す作家さんという印象を受けました。

重すぎず軽すぎずな本を探している人には、ドンピシャだと思います。
見どころ
産まれて2か月で子どもを亡くし、離婚した青子
乳ガンになり、片胸を切除した茅乃
上司と合わず、いじめを受け、退職して引きこもりになった玄也
税理士で2人目の子どもが産まれたばかりの卓馬
4人がそれぞれに抱える悩みや問題と、それがお互いにどう影響し合っていくのかが見どころです。
また、数年の間に起こる様々な出来事も見どころになります。
『新しい星』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんです。
『新しい星』を読んだ感想
それでは、本作品を読んだ感想を、各編ごとに述べていきたいと思います。
「新しい星」

青子は妊娠したが、赤ちゃんの発育が悪く、妊娠中毒症にもなったため、8ヶ月で出産。
産まれたなぎさは2か月で亡くなってしまった。
夫とは離婚し実家に戻ったが、両親とは元のように仲良くできず、一人暮らしをすることに。
この話では、なぎさを亡くしてからの青子の心の動きがとても丁寧につづられています。
お腹の中で育たなかった原因は、赤ちゃんにはなかったので、自分に原因があると考える青子。
青子は「次」を考えられない、でも夫は子どもをあきらめられないので離婚。
あんなに好きだったのに、母親や祖父と一緒にいるのが苦しい。
昔の青子に戻って欲しい、と願う彼らからは、「普通」からはみ出してしまった自分を咎め、治したがっている気配を感じた。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
夫も子どももいない人生を考え始めた青子に対し、家族はそれを許さない。
それでは「普通」ではないから。
夫がいて子どもがいればそれが「普通」で安心できる、ので押し付けてくる。
青子の心の傷には配慮せず、こういう時には家族が一番の攻撃者なのかもしれない。
友達など他人の方が寄り添ってくれるということは、よくありますよね。
「海のかけら」

玄也は会社で新しい上司とうまくいかず、退職して31歳にして引きこもり生活を送っている。
ある時青子からメッセージがきて、練習を見に来ないかと言われる。
渋る玄也だったが、卓馬から茅乃がガンを患ったと聞き、茅乃を励ますために行くことにした。
玄也はとてもやさしい人だと思いました。
……具合が悪くて実家に戻ったのに、助けてもらいたかった親と喧嘩になったんじゃ、それは、めちゃくちゃ辛かっただろうね
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
詳しく話したわけではないけれど、青子の事情を知って玄也が言った言葉です。
人の気持ちがわかる、寄り添ってくれる人ですね。
だから、上司に付け込まれたのかもしれない、と思いました。
優しくて反撃しなさそうな人を選んでイジメている。
でもそのために一生働けなくなるかもしれないのに、、、
世の中には、他人を自分と同じ人間だと思わない人がいるんですよね。
それから、道場にあるタコの水槽。
いじめられている1匹を、玄也が自分の姿と重ねるところは悲しかったです。
「蝶々ふわり」

青子と茅乃はいろいろと大変なことが重なり、蠟梅でも見に行こうと長瀞に泊りがけでやってきた。
乳がんで片胸を亡くした茅乃は、入浴着も準備したし、温泉も楽しみにしていると言っていた。
しかしいざ温泉に着くと「自分はやめておく」と言う。
「ない」と「ある」、失うことについて考えさせられました。
あるものとないものは似ている。そこに「ある」ものは、常に数パーセントの「ない」を存在の内に含んでいる。
同じようにどんな「ない」にも、常に数パーセントの「ある」が混ざり込んでいる。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
青子は、なぎさを亡くしてから、なくした、失った、ばかりに目がいっていた。
でも人工呼吸器に繋がれたなぎさの背中は、温かくすべやかだった。
なくしたのではなく、2か月間もその素晴らしいもの触れさせてもらった。
自分はそれを得たのだ、と考えを切り替えます。
発想の転換ですね。
「失った」ということは、「ある」存在だった。
それは「ない」にはならない、なかったことにはならない、ということかなと思いました。

失ったからってゼロにならないし、なかった頃の自分に戻るのとは違いますよね。
「温まるロボット」

卓馬の妻杏奈は、出産のため里帰りしていたが、新型ウィルス感染症の流行で、いつ戻れるかわからない状況になった。
会えないまま成長していく我が子をテレビ電話越しに見て焦る卓馬だったが、杏奈に「東京に戻りたくない」と言われる。
自粛生活がいつまで続くのかわからない。
不安でしたよね。
それでも4人は、2~3ヶ月に一度、オンラインで飲み会をしていました。
自宅にいながら、気楽に飲める。
悪いことばかりではありませんでした。
妻に「東京に戻りたくない」と言われてから、荒れる卓馬。
むくみが出ていると青子に指摘され、むくみ改善方法を教わります。
彼女たちは自分をケアする方法を山ほど知っていて、強靭だった。
不幸が直撃して弱っている友人たち、と勝手に抱いていたイメージを卓馬は慎重に修正した。
誰が弱いかなんてわからない。もしかしたら弱り方すらよくわかっていなかった自分が一番弱かったのかもしれない。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
4人の中では順調で、問題や悩みもなさそうだった卓馬。
いざ自分にも問題が起きてから気づくんですね。
弱そうに見える人が弱いとは限らない、ということに。
そして、むくみが良くなって、血の巡りが改善されたら、気持ちも上向きに。
心と体はつながってるんだなぁとつくづく思いました。
「サタディ・ドライブ」

玄也の家でポメラニアンを飼うことになった。
冬季うつで調子の悪い母の代わりに、玄也が散歩に連れていくことが多くなる。
するとある時、犬仲間が集まっている公園で、犬をじっと見る不審な人(佐々)を見かけた。
今の状態が良かったとして、それは「たまたま」なんだという言葉に目から鱗でした。
俺のー……勤め先がクソじゃなくて、仕事が続いてて、今この瞬間に実家を出てるのなんて、ぜんぶたまたまだし
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
いつひっくり返るかわからない。明日は我が身ですよね。
だから、今上手くいっていない人を馬鹿にしたり、見下したりしてはいけないと思いました。
それから、外に出て人に会うということはとても大事なことだと改めて感じました。
人は1人では生きていけません。
毒を与える人もいるけど、受け入れてくれる人もいる。
すっかり臆病になっていた玄也が、一歩踏み出せたのは良かったと思いました。
「月がふたつ」

茅乃は、ガンが再発し骨まで転移していた。
薬の副作用もあり、体が思うように動かない中、何とかできる家事をこなす毎日。
一人娘の奈緒のことを守りたいと思う一方、奈緒の嘘や言うことを聞かないことに対して苛立ち、ひどくあたってしまう。
体が辛いと心に余裕がなくなりますよね。
どうして生きているんだろう。わざわざ苦しい思いをしながら命を引き延ばして、菜緒を打ちのめして、今日もなにもできなくて、どうして。
私が早く死んだ方が、夫も娘も楽になれるんじゃないか。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
明るくて前向きだった茅乃が、こんなことになってしまいました、、、
でも子どもは、子どものうちは、どんな目にあっても親を嫌いにはなれないんですよね。
茅乃の気持ちもわかるし、奈緒もかわいそうでした。
負った傷は、大人になったら自分で治すよ。私たちだってそうだったじゃないか。ちゃんと大人になるよ。
だから菜緒ちゃんをどうにかしようとするんじゃなくて、茅乃は自分を満たすことを考えて生きた方がいいよ。
好きなことをしたり、どこかに出かけたりさ。楽しそうにしてるお母さんを、きっと菜緒ちゃんも見てるよ
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
茅乃は、自分がいなくても安定して生活できるように、いい学校に行かせようなど努力していました。
でも思い通りにいかなくて、奈緒にあたってしまう。
茅乃のように、家族の前では弱さを見せられず、友達(青子)の前では見せられるということはありますよね。
私もそうです。
夫には本音を言わない、みたいな。

なぜなんでしょうね。
「ひとやすみ」

茅乃は何度目かの入院をしていて、青子はお見舞いに行く。
娘の奈緒はもう高校生になっていた。
退院したと連絡が来たので、落ち着いた頃に誘おうと思っていたいたところ、茅乃が亡くなったと連絡が来る。
青子は、退院したのはてっきり良くなったからだと思っていました。
どうして言ってくれなかったの、とも。
でも、、、
どれだけ親しくても、長く一緒にいても、その人を完全に知ることはできない。
こうだろう、と思った像から、実際のその人の在り方はいつだって少しずれる。
ふたしかで、揺れて、矛盾して―だからなんどでも会いたくなる。会い足りる、ということがない。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
「本当の茅乃」なんてわからない。
「見せたかった茅乃」だけしか知らない。ということにハッとしました。
誰でも、人に見せる顔は、その人に見せたい顔だけ。
だから同じ人なのに、人によって印象が違うということが起きるんだろうな、と思いました。
「本当の自分」が何なのかを、私はよくわかっていないことにも、気づいてしまいました。
それにしても、奈緒が小学生から高校生になるまで闘病生活が続くなんて、辛いですよね。
でも最高の仲間がいることは、羨ましいなと思いました。
「ぼくの銀河」

玄也は、水槽のメンテナンスを行うスタッフを現場まで送迎するバイトを週2でしている。
そのバイトで急な仕事が入り、茅乃の納骨に行けなかった。
納骨から10日ほどたってようやく霊園へ。
すると茅乃の墓石の前で泣いている女の子がいた。
泣いている女の子は、奈緒でした。
奈緒はお母さんをいら立たせてばかりだったので、お母さんは自分のことを好きじゃないと思い込んでいます。
そうなっちゃいますよね、、、
そこで玄也は、そうではないことをひとしきり言った後で、次のように言います。
学校でも、家でも、大人になってからでも、なにか困ったとか、手を貸してほしいことがあったら言ってください。
どうしたら菜緒さんが楽になるだろうって、一緒に考えます。
引用:『新しい星 (文春e-book)』(彩瀬 まる 著)
一緒に考えてくれる人がいるって、こんなに心強いことはないですよね。
やっぱり玄也はやさしくて、人の気持ちがわかる人だと思いました。
傷ついた人だからでしょうね。
上から目線ではなく、同じ目線で考えてくれる人。
そして、茅乃は亡くなったけど、茅乃の娘の支えになることで、ずっと茅乃と関わり続ける。
3人の中から茅乃がいなくなることはないのだ、と思いました。
最後に
第166回直木賞にノミネートされた『新しい星』を紹介しました。
生きていれば辛いこともあるけど、希望もあるということを教えてくれる物語です。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
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