【感想】本屋大賞・直木賞ノミネート『スモールワールズ』

直木賞
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この記事では、2022年本屋大賞第3位となり、第165回直木賞候補になった一穂ミチさんの『スモールワールズ』を紹介します。

この本は短編集となっていて、7つの新しい世界を見せてくれます。

  • 夫の不倫に悩む女性と父親から暴力を受けている男子中学生との交流
  • 事件を起こし転校したが学校に馴染めない弟と出戻りしてきた姉との交流
  • 兄を殺された被害者女性と受刑者との手紙の交流  などなど

生きていればいろいろあるよね、という言葉では片づけられない様々な感情が湧きあがってきます。

そんな『スモールワールズ』を読んだ感想をまとめました。

ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。

この本はこんな人におすすめ
  • 予想を超えた展開の話を読みたい人
  • 新しい世界を見たい人
  • 本屋大賞に興味がある人

『スモールワールズ』について

タイトルスモールワールズ
著者一穂ミチ
出版社講談社
発行日2021年4月22日
ページ数274P

この本は、次の7編が収録された短編集となっています。

  • 「ネオンテトラ」
  • 「魔王の帰還」
  • 「ピクニック」
  • 「花うた」
  • 「愛を適量」
  • 「式日」
  • 「スモールスパークス」

展開を予想しながら読んでいましたが、ことごとく予想の先を行く物語たち。

心温まるなぁと思っていたら、恐ろしい話になっていったり、ジェットコースターのように感情がアップダウンします。

非日常を味わえる小説の醍醐味にあふれていますよ。

著者について

著者である一穂ミチさんのプロフィールです。

2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。

『スモールワールズ』(本書)で第43回吉川英治文学新人賞を受賞し、2022年本屋大賞第3位となる。

『光のとこにいてね』が第168回直木賞候補、2023年本屋大賞にノミネート。

『パラソルでパラシュート』『うたかたモザイク』『砂嵐に星屑』など著作多数。

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)

一穂ミチさんの作品を読んだのは、『光のとこにいてね』と第171回直木賞を受賞した『ツミデミック』に続き3作目でした。

どの作品も、私に衝撃を与えました。

しかも思わぬところから受ける衝撃なので、一穂さんの作品を読むときは、受け身が取れるように準備した方がいいです。

私にとって、3作品とも忘れられない1冊となりました

『光のとこにいてね』と『ツミデミック』を紹介している記事があります。

気になった人はぜひ合わせてご覧ください。

『スモールワールズ』を読んだ感想

それでは、本作品を読んだ感想を各編ごとに述べていきます。

「ネオンテトラ」

ネオンテトラ

美和は結婚して8年たったが、妊娠の気配がない。
夫は若い女と浮気しているが、追求せずに円満な夫婦を演じている。
そんなある日、親から暴力を受けている男子中学生の笙一しょういちと出会う。
近所のコンビニで落ち合い、彼と語り合う時間が美和の癒しの時間となる

夫が不倫、子どもはできない、モデルの仕事は先細り。

そんな自己肯定感が下がってしまうような満たされない美和の気持ちはよくわかりました。

笙一との時間が癒しになる気持ちも。

ホットスナックをご馳走し、少し助けたというか彼の力になれたような気持ちになることも。

純粋な少年と話すことで、自分も少し洗われたような気分にもなりますよね。

でもそれ以上がありました。とても恐ろしい面を美和は持っていました。

でも、、、

女性なら誰でも持っているのかもしれないと思ったら、さらに怖くなりました。

もしかしたら女性に限らず、誰もが裏の恐ろしい顔を持っているのかもしれません。

知らないままでいる方が幸せだと思いました。

「魔王の帰還」

魔王

結婚して家を出た姉の真央が実家に戻ってきた。
一方、鉄二は新しい高校に馴染めず、いつも一人行動をしている。
同じようにみんなと馴染めずに、一人行動をしているクラスメイトの菜々子がいた。
ひょんなことから真央と鉄二、菜々子で金魚釣り選手権に出ることになる。

勇気が湧いてくるとても素晴らしい話でした。

奇跡は起こらない、現状は変えられない、ならば何をするか?

悲観して終わるとか諦めるとも違うラストに感動しました。

それから、田舎のうわさの恐ろしさ。

鉄二についても奈々子についても、あっという間に広がって腫物扱い。

でもそれに負けない、強くたくましく楽しく生きている2人が素敵すぎました。

気持ちで勝つとか負けるとか、あるから

(中略)

いい悪いじゃなくて、その気持ちの強さに住谷さんは勝ててないんだと思う。住谷さんの、ここで楽しくやっていきたいみたいな気持ちが。だから力吸い取られてやる気出なくなる。

気持ちって物理なんだと思う

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)電子書籍P62

住谷さんは菜々子のことです。

菜々子の母は、新しい父とうまくいきたいために、菜々子を守ってはくれませんでした。

気持ちで母に負けたということだと鉄二は言います。

「気持ちは物理」って名言だと私は思いました。

気持ちで負けたらいけないことを覚えておきたいです。

菜々子は鉄二という仲間(同志でしょうか)を得たことで、新天地で楽しく過ごせるようになりました。

わかってくれる人がいることは、大きな力になりますね。

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『スモールワールズ』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍を専用リーダーで読むようにしたら、目が疲れなくて楽ちんになりました。

「ピクニック」

ピクニック

希和子の娘の瑛里子は、結婚して女の子(未希)を産んだ。
手のかかる赤ん坊で瑛里子はノイローゼ気味になり、さらに夫は単身赴任となる。
未希が成長し、育児少しが楽になったところで、未希の面倒は見るから夫の赴任先に行くことを希和子は瑛里子に提案する。
久しぶりに夫婦水いらずでいる最中、希和子から未希が動かないと電話が来る。

「魔王の帰還」から一転して、恐ろしい話でした。

未希の亡くなった状況、瑛里子には実は妹がいたと言う話、、、

このような人間の恐ろしい一面を描く話は、一穂さんの得意分野だと思います。

それだけ出産育児というのは女性にとって命がけだし、心にも大きな負担を強いるものなのですね。

子どもを育てていく中で、「あの時ああしていればよかった」という後悔が一瞬もない親はいるでしょうか。

子どものちょっとした行いであわや、と蒼白になった経験のない親は? 

子どもの成長というのは「たまたま無事でいてくれた」日々の積み重ねだと感じたことのない親は?

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)電子書籍P117

故意であるかに関係なく、「事故」はいつ起きるかわからない。

大きくなれた人は、たまたま無事だっただけなのかもしれないという言葉には納得してしまいました。

「花うた」

音符

深雪は両親を亡くし、年の離れた兄に面倒を見てもらって大人になった。
肩がぶつかったという理由で兄を殺し、刑務所にいる秋生に深雪は手紙を出す。
それから月1のペースで文通が続いていく。

手紙をやり取りしてくうちに、秋生が辞書を引くようになり、漢字を書き、新しい言葉を覚えていきます。

それまでは秋生の世界には、殴られる側を殴る側しかいませんでした。

育った環境で、人はどうにでもなってしまうのだと思いました。

そして、それまでどんなことが起こって、どう思って生きてきたのかをお互いに素直に書いていく。

それは手紙だから、顔も知らない相手だからできることなのかもと思いました。

そうして徐々にお互いの相手に対する思いが変わっていく。

被害者と加害者、罪と罰、反省や謝罪、、、

そんな単純には人間はできていない。

当事者やごく近しい人にしかわからないことってたくさんあるんだろうなと思いました。

「愛を適量」

男性教師

愼悟は公立高校の教師をしている。
担任も部活も受け持たず、たんたんとルーティンをこなす代わり映えのしない毎日。
そんな中、突然見た目が男になった娘が現れる。
性転換手術をするまでの間、しばらく置いてほしいと言ってきた。

この話を読んで、替えがきかない自分の体を大事にしようと思いました

娘が家にいることで、自分に手をかけるように変わっていく慎悟。

自分への愛着を育てる儀式みたいなものだ

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)電子書籍P204

お風呂上りに、顔に化粧水と乳液を塗ることをこのように言いました。

まずは自分が自分を大事にしないと、他の人が大事にしてくれるわけはないんですよね。

それから、慎悟は初めからやる気のない教師だったわけではありません。

愛情のつもりで注いでいた過剰な思い入れは、誰の得にもならなかった。

受け取る側のキャパを見越して適量を与えられないのなら、何もしないほうがましだ

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)電子書籍P192

「適量」の難しさったらないですね。

おせっかいすぎないか、余計なことではないか、これでは不足じゃないのか、、、

誰か何が「適量」なのかをその都度教えて欲しいと思いました。切実に。

「式日」

喪服の男女

高校時代の後輩から、父が亡くなったので葬儀に参列してほしいと1年ぶりに連絡が来る。
葬儀の会場は少し離れた場所だったが、この先いつ会えるかわからないので参列することにした。

この物語の登場人物は「先輩」と「後輩」だけで、名前も出てきません。

先輩は後輩のことが好き、後輩もうすうす気がついているという関係。

お互いに踏み込み過ぎないように、気を遣いながらのやり取り。

思いやりでもあり、関係を壊さないためでもある。

後輩は、父がアル中で暴力を受けてきた。

先輩は、両親がいないため施設で育った。

そんな2人だから、人との距離感のつかみ方が難しいのかもしれないと思いました。

「だから、俺が自分の黒歴史話したら、ドン引きして、何だこいつってちょっと嫌いになってくれるかなって、そういう期待もあった。だって、好かれるって恐怖だろ

「嫌われるより?」

嫌われたらそこで終わりじゃん。好かれたら始まっちゃうから、そっちのが怖いよ

引用:『スモールワールズ (講談社文庫)』(一穂ミチ 著)電子書籍P242

好かれるのが恐怖という後輩。

わからなくもないけど、、、

傷つくくらいだったら、初めからない方がいいという考え方でしょうか。

お互いに、本当に言いたいことは言えないままの関係でした。

そういう進展しない関係のまま終わることってありますし、その方がずっと忘れない思い出になる気がしました。

「スモールスパークス」

花火

元妻から16年ぶりに連絡が来て、父の弔い上げをするから来てほしいと言われる。
参列したあと、帰りの新幹線が大雨で復旧の目途が立たなくなり、途方に暮れてしまう。
すると元妻が自分の部屋に泊まればいいと提案してくる。

父を安心させるために結婚し、亡くなったら離婚した2人。

元妻にしたら、父のことがなければ結婚したい相手ではなかったし、結婚した後も続けようと思えなかったのでしょう。

さっぱりはっきりしている女性で、私は嫌いではないと思いました。

最後に

2022年本屋大賞第3位となり、直木賞の候補にもなった一穂ミチさんの『スモールワールズ』を紹介しました。

今まで見たことのない、7つの小さな世界へ旅立ってみるのはいかがでしょうか。

まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。

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