この記事では、第159回(2018年)直木賞受賞作品の『ファーストラヴ』島本理生著を紹介します。
ある殺人事件の執筆を依頼された臨床心理士が、容疑者との面談を通じて事件の真相を明かしていく物語です。
容疑者の環菜がなぜ父を「刺す」ことに至ったのか、その経緯と心理を女性は想像し共感できると思います。
女性の被害と心理について、そういうことがあるということを、ぜひ男性にもこの本を読んで知っていただきたいです。
『ファーストラヴ』という本について
タイトル | ファーストラヴ |
著者 | 島本理生 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2018年5月31日 |
映画化にもなっていますね。
この物語の世界観がどのように映像化されたのか興味はありますが、私はまだ映画は観ていません。
『ファーストラヴ』のあらすじ
アナウンサー志望で大学生の環菜は、就職面接を途中退出し、職場に出向いて父を包丁で刺殺した。
動機は自分でもわからないので、そちらで見つけてください、と供述する。
この事件の執筆依頼を受けた臨床心理士の由紀と、国選弁護人で由紀の義弟でもある迦葉(かしょう)が事件の真相を追っていく。
見どころ
環菜はなぜ父を殺したのか、なぜ自分で動機がわからないのか。
環菜の持つ闇、そして由紀や迦葉も闇を持っています。
それぞれが持つ闇が次々と明かされていくところが見どころになります。
また事件の真相は、私の予想とは全く違うものでした。
予想外の結末も見どころです。
『ファーストラヴ』を読んだ感想
これからこの本を読んだ私の感想を述べていきます。
ネタバレも含みますので、まだ本を読んでいない人はご注意ください。
親と子
由紀自身にも心に傷がある臨床心理士だからこそ、ここまで環菜の心に深く入り込んでいき、真相を導き出せたと思います。
環菜自身が自分の心をわかっていませんでした。
「大人の期待に応えないといけない」と自分を殺してきたせいで、自分の本当の気持ち、自分の意志が見えなくなって、自分に嘘をついて生きてきました。
子供は親に愛されたい、それがすべてと言ってもいいのではないでしょうか。
その純粋な気持ちを親が利用して支配しようとするなんて、読んでいて怒りが湧いてきました。
共感できるか否か
環菜の受けてきた被害と心理について、想像し共感できる人とできない人がいるのではないでしょうか。
私は小学校高学年の時に道を歩いていたら、後ろから来た自転車の男にお尻を触られました。
たったそれだけ?と思うかもしれませんが、その時の不快感は今でも鮮明に思い出すことができます。
触る、までもいっていない「視線」を受けること。
性的な目で見られることの不快感、人として見られておらず人格否定に感じること。
それは男性には理解しにくいと思います。
そのような視線を受けた「気持ち悪さ」は一生消えることはありません。
1回受けただけでもそうなのに、定期的に何人もの男性から受けていた環菜はどれほどの心の傷を負ったでしょうか。
ただ見るだけ、触るだけでも、女性にとっては耐え難いことをこの物語を読んで男性には知って欲しいと思います。
人を助ける仕事
人助けしたいやつはたいてい同情できる人間しか助けたがらない。助けたくない人間まで助けなきゃいけないのが医者と弁護士だ。
『ファーストラヴ』島本理生 電子書籍 P171
由紀の夫で、迦葉の兄でもある我聞の言葉です。
私は自分では人助けをする方だと思っていましたが、この言葉にハッとしました。
助ける人を選んでいるんですよね。
仕事とはいえ、来るもの拒まずで誰でも助ける仕事をしている人を、改めて尊敬する気持ちになりました。
相手がどんな人であろうと助けるには、気持ちが入り過ぎない方がいい。
だから迦葉のような「引いてる」人の方が向いている、ということにも心から納得できました。
まとめ
この記事では、第159回(2018年)直木賞受賞の『ファーストラヴ』という本について紹介しました。
この物語のように、内容はどうであれ自分の親から被害を受けている(た)人は少なくないと思います。
そして、いわゆる虐待は男性ばかりでなく女性も加害者になってしまうことがあります。
被害者の一生を変えてしまうことになる、ということをこの物語から学べますので、まだ読んでいない人は読んでみてください。