この記事では、第162回直木賞にノミネートされた小川哲さんの『嘘と正典』を紹介します。
退屈な毎日で、何か面白いことないかなぁ、なんて思っていませんか?
今回紹介する作品は、SFありミステリーありのエンターテイメント小説。
現実逃避して不思議体験をしたい人に打ってつけの作品です。
『嘘と正典』は、6編が収録されている短編集です。
読んだ感想を、各編ごとにまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『嘘と正典』について
タイトル | 嘘と正典 |
著者 | 小川哲 |
出版社 | 早川書房 |
発行日 | 2022年7月6日 |
ページ数 | 252P(電子書籍) |
本作品は、「魔術師」「ひとすじの光」「時の扉」「ムジカ・ムンダーナ」「最後の不良」「嘘と正典」の6編が収録されています。
この短編集の中に、ある傾向を見つけました。
「最後の不良」だけどちらにも属していませんね、、、
「最後の不良」は過去を変えるのではなく、過去に戻ろうとする物語です。
ということは、“時間”という括りにすれば、上の方の仲間に入れても良さそうですね。
“時間”と“父”がキーワードになっている短編集といえるでしょう。
著者について
著者である小川哲さんのプロフィールです。
1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。
2015年、「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。
2017年刊行の『ゲームの王国』で第31回山本周五郎賞、第38回日本SF大賞を受賞。
2019年刊行の短篇集『嘘と正典』は第162回直木三十五賞候補となった。
2022年刊行の『地図と拳』で第13回山田風太郎賞、第168回直木三十五賞を受賞。同年刊行の『君のクイズ』は第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞している。
引用:新潮社公式サイト
私は小川哲さんの著作が好きで、読んだのは本作品で4作目となりました。
読んでいて、小川さんの頭の中は一体どうなっているのだろうと心から感心し、独特の世界観がとても心地いいんです。
まだ小川さんの作品を読んでいない人は、本作や『君が手にするはずだった黄金について』のような短編集から攻めるのがおすすめです。
『嘘と正典』の見どころ
時間旅行とミステリーの融合、独特の不思議な世界が見どころになります。
もやっとして終わる物語、これからの希望を感じる物語、こんな風につながっていたのか!と驚いて終わる物語など様々で、飽きさせてくれませんよ。
『嘘と正典』を読んだ感想
それでは本作品を読んだ感想を、各編ごとに述べていきますね。
「魔術師」
テレビ出演を続けるほどマジック界のスターとなった竹村理道
長年の夢であった魔術団結成と、主演映画の失敗により多額の借金を抱え、家族にも逃げられて没落。
ところが22年後、タイムマシンを使った今までにないショーで、理道は復活した。
「世にも奇妙な物語」みたいだな、と思いました。
すっきり終わらないで、謎を残したままです。
タイムトラベルが成功したのかもわかりませんし、同時代に同じ人が二人になるけど、、、?
頭がこんがらがってしまいました。
ただわかったのは、理道も娘もマジックに人生を懸けていたということ。
家族のことなど考えられないくらいに。
人生を懸けるものがあるというのは、ある意味羨ましい生き方だと思いました。
周りの人は迷惑ですけどね。
「ひとすじの光」
短気で気難し屋の父が末期がんのため、病院に行った僕。
その3日後に父は亡くなった。
ほぼすべての相続の手続きが終わっていたが、1つだけ手付かずのものが。
父は「テンペスト」という名の競走馬を所有していた。
「魔術師」もそうですが、主人公の「僕」の名前は出てきませんでしたね、、、
ミステリー要素のある物語であり、何十年にわたるミニ大河小説のようでもあると思いました。
スペシャルウィークをいう馬の系譜をたどっていくうちに、「僕」の系譜にたどり着く。
馬と人間の歴史が重なり合っていく結末に、身震いがしました。
京都大賞典で負けて、「もうおしまいだな」と父に言われたスペシャルウィーク。
作家としてデビューしたては良かったが、賞をもらい、本が売れ始めてから書けなくなった僕。
スペシャルウィークを自分自身と重ね合わせて、特別な思いを抱く。
最後には希望が見える、とてもスッキリ温かい物語でした。
「時の扉」
時間を止めて、過去を抹消する力のある「時の扉」について王に語る物語。
こちらも「世にも奇妙な物語」のようなお話。
絵描きと金貸しの2人の男の話ですが、どちらにも救いがなく、後味がよろしくないと思いました。
絵描きが、たった1回会っただけの金貸しの妻への異常な恋心もよくわからなかったし、
金貸しの妻の故郷の「双子が生まれたら切断して捨てないといけない」という風習も残酷すぎました。
さらに過去を抹消することによる代償も、理解力不足で私にはピンときませんでした。
この物語は私にとってはハテナ?であり、はっきり言うと胸くそ悪いお話でした。
「ムジカ・ムンダーナ」
高橋大河は「最も価値のある音楽」を聴くために、フィリピンのデルガバオ島に向かう。
作曲家の父が残した「ダイガのために」というカセットテープ。
その曲のルーツがデルガバオ島にあるはずだった。
同じ曲を聴いても、人によって連想するものが違うのが面白いと思いました。
大河の父が残した「ダイガのために」を聴いて連想したものは次のとおり。
奈緒は大河の妻、須和田は大河の仕事のパートナーです。
連想したものを見て、どんな音楽かわかるような気がしますね。
頭に音楽が流れました♪
また、音楽は時間も超えることができますよね。
過去に聴いた音楽で、当時を思い出します。
誰かにとっては喜びの歌だったり、誰かにとっては失恋の苦い思い出がよみがえったり。
音楽の素晴らしさや価値について、改めて気づかせてくれる物語でした。
「最後の不良」
MLS(ミニマルライフスタイル)社は、「流行をやめよう」というテーマのセミナーで会員を増やしてきた。
均一化された社会、無駄のない生き方に反発する桃山は、特攻服に着替え、最後のヤンキーとして抗議行動に参加する。
人と同じようにして目立たないか、人と違うことをして目立つか。
無駄のないように生きるか、無駄を取り入れて生活に彩を与えるか。
自分ならどうしたいかと考えました。
結果、完全にどちらかに寄るのは嫌だと思いました。
どちらにも良さがある。
目立ちなくないときもあれば、人と同じは嫌なときもある。
そうかと思えば、あの人と同じようになりたいと思うときもある。
その時々でブレブレな生き方をしたい、というのが私の結論でした。
そんな生き方でいいのかは、深く考えないようにします(笑)
「嘘と正典」
CIAのモスクワ支局員であるホワイトは、有力な情報提供を申し出たペトロフとコンタクトを取る。
ペトロフは、過去へ通信を送る技術を発見したと告げる。
懐疑的なホワイトだったが、もしその技術が本物なら、共産主義が産まれないように過去を改変できるのではないかと考える。
都合の悪い歴史を改変できるとしたら、、、
このような物語をまじめに捉えて、想像してみるのも面白いと思いました。
もう何が何だか、ぐちゃぐちゃになってしまうでしょうね。
産まれた人が、突然消えたりするのでしょうか。
「魔術師」にしても「嘘と正典」にしても、過去を変えてしまったらダメなんだと思います。
歴史からはせいぜい「学ぶ」に留めないと。
過ぎてしまったことは振り返らないこと。
過去を変えようとするより、これからのことに全力を注ぐ方が大事だと私は思いました。
最後に
第162回直木賞にノミネートされた小川哲さんの『嘘と正典』を紹介しました。
ちょっと不思議な世界に旅に出てみませんか?
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
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小川哲さんの作品は『君のクイズ』もおすすめです。短編集ではありませんが、サクッと読みことができますよ。