この記事では、第145回直木賞にノミネートされた葉室麟さんの『恋しぐれ』を紹介します。
江戸時代の俳諧師として、また絵師として有名な、与謝蕪村を取り巻く人々の恋の物語です。
年齢も立場も独身・既婚も関係なく、人は恋をしてしまう生き物なのですね。
恋は人生に彩を与えてくれ、時には命を懸けるほどに情熱を燃やします。
そんな恋模様を綴った短編集である『恋しぐれ』の感想を、名言とともにまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『恋しぐれ』について
![](https://pics.dmm.com/mono/book/library/bkt32960120/bkt32960120ps.jpg)
タイトル | 恋しぐれ |
著者 | 葉室麟 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2011年2月22日 |
ページ数 | 238P(電子書籍) |
本作品は、7編が収録されている連作短編集です。
高齢になった与謝蕪村自身の恋の話から、娘や弟子など、蕪村の身近な人たちの恋のお話が綴られています。
![ざきざき](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2023/08/hukidassi.jpg)
恋の話はもちろんのこと、弟子たちがお互いに助け合って生きていく姿も美しいですよ。
著者について
著者である葉室麟さんのプロフィールです。
1951年北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年『乾山晩愁』で第29回歴史文学賞を受賞し、作家デビュー。
2007年『銀漢の賦』で、第14回松本清張賞を受賞。
2009年『いのちなりけり』が第140回直木賞候補。同年、『秋月記』で第141回直木賞候補および第22回山本周五郎賞候補となる。
2010年『花や散るらん』が第142回直木賞候補。
2012年『蜩ノ記』で第146回直木賞を受賞する。
近著に、『無双の花』『螢草』『おもかげ橋』など多数。
引用:『恋しぐれ』(葉室 麟 著)
私は葉室麟さんの著作にハマって、葉室麟さんの本ばかり読んでいた時期がありました。
もう亡くなられてしまったので、新作が出ないのが残念でたまりません。
著作の中でも、直木賞を受賞した『蜩ノ記』は特におすすめです。
紹介記事もありますので、まだ読んでいない人はぜひ読んでみてほしいです。
『恋しぐれ』の見どころ
娘と変わらない年頃の芸妓に恋する蕪村、何度も落ちぶれる大魯、兄嫁に手を出す綾足、奥女中2人に手を出す新五郎などなど、、、
どうしようもないなぁと思ってしまう男たちの恋の行方。
また想うにしても、想われるにしても味わう、女たちの苦悩が見どころになります。
『恋しぐれ』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんですよ。
『恋しぐれ』を読んでみた感想
それでは本作品を読んだ感想を、各編ごとに述べていきますね。
名言も紹介します。
「夜半亭有情」
![芸妓](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/94cb165e8fe6f4a5d22684c5c8003486-225x300.jpg)
蕪村は、最近家の周りをうろつく与八という男性が気になっていた。
与八の横顔が、蕪村の想い人である小糸に似ていることから、小糸の父ではないかと思いつく。
与八が労咳を患っていると聞いて、蕪村は医師の秋成を連れて、与八に会いに行くことにした。
年の離れた若い妻と娘がいながら、芸妓の小糸に恋をしている蕪村。
それだけでなく、以前には人妻に手を出していたことがわかります。
江戸時代は今とは貞操観念が違って、もっと自由だったみたいですね。
それにしても、男というのは、、、
男性にしてみれば美しい話なのかもしれませんが、美談にしてほしくないと思いました。
心はどうしようもないし、ときめく存在がいると生活に張りが出るのはわかります。
でも妻の立場からすれば、よそ見している人のお世話なんてしたくないですね。
「春しぐれ」
![嫉妬する女性](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/805384-216x300.jpg)
「春しぐれ」は蕪村の娘くのの物語。
懐石料理の仕出しを販売するくのの嫁ぎ先に、女中のおさきと恋人の仁助が訪ねてくる。
義父は、くのの顔を立てて、仁助を雇ってくれることになった。
仁助に賭場に連れていかれた夫の佐太郎は、大きな借金を抱えてしまい、くのは持病で働けなくなる。
妬み恨みの恐ろしさを感じました。
おさきは、くのの結婚を滅茶苦茶にしようとまでは、考えてなかったかもしれない。
でも結果は、、、
人と比べても良いことないんですよね。
そんな暇があったら、自分の人生をどうするか考えた方がよっぽどいいと思うんです。
妬んだところで、相手の人生を壊したところで、自分の得にはならない。
くのは若いし、大事に育てられたやさしい素直な娘だったから、おさきの妬みにも気づかなかったし
2人を受け入れてしまったのは、仕方がなかったと思いました。
また、義父の伝右衛門の人となりに感動しました。
後からそうすれば良かった、こうすべきだったと思うことはありますよね。
でも過ぎてしまったことは、取り返しがつかない。
それなのに、くのにした仕打ちを詫び、正直に話した伝右衛門の人間性に感動しました。
嫁をちゃんと1人の人間として見ている、ということですね。
「隠れ鬼」
![浪人](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/23359505-225x300.jpg)
今田文左衛門は阿波藩の武士で大坂の蔵奉行を務めていた。
接待で遊郭に連れていかれてから、小萩という遊女にはまり、借金までしてしまう。
首が回らなくなった文左衛門は、小萩と駆け落ちしようとするが、役人に見つかる。
家禄没収の上、藩から追放の身となり、妻と子どもを連れて、知り合いの家にお世話になることになった。
この話は途中まで蕪村と何の関係があるのかな、、、と思いながら読みました。
藩から追放された後、文左衛門を支えたのは、俳句を詠むことだったんですね。
俳諧の才能があって、蕪村の一門に入ることができました。
そして弟子を取るようになり、生活を支えてくれる富裕層もいたのに、またもやらかして落ちぶれる。
自分の感情を抑えることができない人でした。
でも、落ちぶれても必ず助けてくれる人がいるんです。
世の中、悪いことばかりやない。
自分がしっかりしてたら生きていける。死んだらしまいや。生きた者が勝ちや。
引用:『恋しぐれ』(葉室 麟 著)電子書籍P93
きつい折檻を受けて、足が悪くなってしまった小萩の言葉です。
世の中悪いことばかりではない、絶望して死んでしまったらお終いということですね。
「月渓の恋」
![花魁](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/25124809-300x212.jpg)
月渓がお寺で出会った、おはるという名の少女。
宮大工の父を探しているおはるのために、つてを頼って居場所を探すと、性悪の女(お吉)と一緒に住んでいることがわかった。
月渓はおはるを連れて父に会いに行き、おはるはその家に住めることになった。
お吉は、ほんとに性悪女でした、、、
父の医者代の代わりに、おはるを女衒に売ってしまったのです。
![ざきざき](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2023/08/hukidassi.jpg)
ひどい話ですよね(>_<)
月渓の恋はここでお終い、でもおかしくないのですが、お終いになりません。
月渓とおはるのような縁を、運命と呼ぶのだと思いました。
美しいままで終わった2人の関係。
おはるが年老いたり、嫌なことが目に着いたりする前に終わったからなのかな、と思ってしまいました。
「雛灯り」
![ひな人形](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/086781-300x300.jpg)
蕪村の家に新しい女中おもとがやってきた。
家に綾足という男が来ると、その後姿をじっと見るおもと。
借りた傘を返すため、綾足がまた来ると知ったおもとは、暇をもらいたいと申し出る。
綾足が書いた「西山物語」は“源太騒動”を題材にしたもので、おもとは源太の元妻だった。
許されぬ恋とわかってはいても、気持ちは止めることができない。
命を懸けた2組の恋の話が悲しくもあり、美しくもありました。
それから、源太やおもとをさらに不幸にした「西山物語」。
真相は、当事者にしかわかりません。
騒動を美化したり、源太を持ち上げたりするのは、今のSNSにも通じる恐ろしい現象だと思いました。
「牡丹散る」
![牡丹の花](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/998849-300x212.jpg)
円山応挙の高弟蘆雪は、弟子入りを希望する新五郎と妻の七重を、応挙に会わせる。
弟子になって間もなく夫婦で通いたいと言う申し出に、しぶしぶ了承する応挙だったが、次第に七重を心待ちするようになる。
恋の力の偉大さを感じました。
七重はんに会うて、わしは久し振りにひとを想う気持を持てました。
せつのうて哀しいのやけど、なにやらあたりが生き生きと見えましてなあ。
わしは物の形だけを見て絵を描くことに慣れてしもうて、ひとへの想いを忘れかけよりました。
引用:『恋しぐれ』(葉室 麟 著)電子書籍P198
想う人がいるってだけで、あたりが生き生きと見える。
人に活力を与えてくれる。
それは、恋が成就するかどうかには関係ないんですよね。
ときめきがあることが大事だ、と聞いたことがあります。
それは芸能人でもいいと。
ときめくものをこれから探しに行こうと思います!
「梅の影」
![白い梅](https://zaki-style.com/wp-content/uploads/2024/05/24816543-203x300.jpg)
芸̪妓のお梅は蕪村門下で、梅女の名で句を詠んでいる。
蕪村が亡くなったことを聞いて、自分が詠んだ句のせいで、師匠の寿命を縮めてしまったのではないかと悔やむ。
恋心によらない結びつきも、尊いと思いました。
月渓とお梅の結びつきは、「牡丹散る」で出てきた言葉を思い出しました。
されど、想うことと、ともに生きることは一緒ではございません
引用:『恋しぐれ』(葉室 麟 著)電子書籍P197
相思相愛になることと、ともに生きることは違うんですね。
月渓には、おはるという想い人がいる。
お梅とは、師匠に対する思いが2人を寄り添わせました。
月渓とお梅の関係を言葉で表すなら、「同志」が一番近いのではないでしょうか。
2人で同じ方向を向いていられるそのような関係も素敵だと、私は思いました。
最後に
第145回直木賞にノミネートされた、葉室麟さんの『恋しぐれ』を紹介しました。
7編の恋物語が収録されています。
いくつになっても、どんな立場であっても、恋は素晴らしく偉大であることを再確認してみませんか。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
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直木賞に興味がある人は、第170回の作品をまとめた記事がありますので、ぜひご覧ください。