この記事では、第168回直木賞と第13回山田風太郎賞を受賞した小川哲さんの『地図と拳』を紹介します。
『地図と拳』は、満州のある架空の町(仙桃城)が主人公とも言える大河小説で、日露戦争後から第2次世界大戦後までを描いた物語です。
よそ者によって支配・翻弄され、それに拳(暴力)で対抗した「国」の歴史を見ることができます。
満洲とは、ロシア、日本、中国にとって何だったのか。
満洲の歴史を通して、日本という国や日本人のアイデンティティについて考え直すきっかけとなります。
この本を読んだ感想とレビューをまとめましたので、まだ読んでいない人はぜひ参考にしてください。
『地図と拳』について
この本はページ数も多い超大作となっています。
登場人物も多いです。登場してはあっけなく死んでいきます。
中国人の名前って漢字が難しいし覚えづらいですよね。
正直最初は読みづらいなと思っていました。
私のように挫折しそうになる人がいるともったいないので、無事に読み終わった私からちょっとしたアドバイスを2点ほど。※余計なお世話だという人は飛ばしてください。
人物は深追いせずに満洲の歴史をとらえようとする読み方をすれば、スルスル読み進められると思います。
軸となる人物は数人しかいませんので。
もう1つは、大作なので一気読みはなかなか難しいと思いますが、あまり時間を空けないで読み進めた方がいいです。
なぜなら時間をおいてしまうと、それまでの話がわからなくなったり、この人なんだっけ?だらけになると思います。
そんなこと言われるなんて、なんか難しそうな本だな~と思われたかもしれませんね。
私には正直ちょっと難しかったです。
でも満洲のことを日本人の視点から漠然としか知らなかったので、元々の住民のことやロシアとの関わりを知ることができて、得たものがたくさんありました。
現地の人にしたら「日本」は何をしたのか。
日本人なら知っていて損はないと思います。
著者について
著者である小川哲さんのプロフィールです。
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。
2015年に『ユートロニカのこちら側』で第三回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。
『ゲームの王国』(2017年)が第三八回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。
『噓と正典』(2019年)で第162回直木三十五賞候補となる。
引用:『地図と拳 (集英社文芸単行本)』
小川哲さんの作品は、『君が手にするはずだった黄金について』『君のクイズ』に続いて読むのは3作目でした。
この2作がさらっと楽しく読める本だったので、『地図と拳』の重厚さにとても驚きました。
小川哲さんって面白い思考の人だな、こんな考え方があったんだ、とワクワクします。
『地図と拳』を読み終わったら、ぜひ読んでみてください。
紹介している記事がありますので、気になった人はぜひ合わせてどうぞ。
『地図と拳』のあらすじ
高木は軍より命じられた秘密の調査のため、茶商人のふりしてハルビン行きの船に乗っていた。
同行者は、ひ弱で役に立たたない通訳の細川のみ。
支那人が「燃える土」の話をしているのを聞いた細川は、ハルビンの調査が終わったら「燃える土」のある地方も調査した方がいいと高木に提案する。
※本に記載の通りに「支那人」と表記しています。
『地図と拳』の見どころ
登場人物がたくさん出てくる物語ですが、軸となる人物は多くはありません。
次の5人の満洲での生き方が本作の見どころになります。
そして、タイトルにある「地図」
仙桃城の地図に命がけで携わったのが孫悟空以外の4人です。
紙の上にどこに何があるのかが記されている、それを見て目的地に行くことができる。
地図の意味はそれだけではありませんでした。
「地図」とは何なのか。それも見どころです。
『地図と拳』を読んだ感想
それでは本作品を読んでみた感想を述べていきますね。
忠臣二君に仕えず、貞女二夫に見えず
とにかく拳(暴力)の場面が多い中で、数少ない心が熱くなる場面がありました。
忠臣二君に仕えず、貞女二夫に見えず。あなたの夫を私は尊敬しています。その気持ちゆえに、夫を亡くしたあなたの助けになりたいと思っているのです。
私はあなたという主君に仕え、その人生を陰から支えたいと思っています。
もちろんあなたが二夫に見える必要はありませんし、私も二君には仕えません。
引用:『地図と拳 (集英社文芸単行本)』電子書籍P185
この須野の言葉のように、見返りを求めないことこそ本当の愛なのかなと思いました。
須野は軍人の夫を亡くした寡婦(慶子)に恋をしました。
慶子をデートに誘うことには成功しましたが、慶子は父から「忠臣二君に仕えず、貞女二夫に見えず」と言われてしまいます。
慶子と結婚することにこだわっていた須野でしたが、慶子を支えるのに結婚は必須ではないと気づいて、このように言いました。
こんなに思われる慶子がとってもうらやましいです。
ところで恥ずかしながら私は「忠臣二君に仕えず、貞女二夫に見えず」ということわざを知りませんでした。
忠実な臣下は、いちど主君を決めたら、他の主君に仕えない。貞節な女性は、夫に先立たれても、再婚はしない。と言う意味ですね。
前半は置いといて、後半は何だかズルいなと思ってしまいました。
男性は妻が死んだらすぐに後妻を迎えるというのに。
昔は女性が自活することが難しかったので、男性に従い、耐え忍ぶしかなかったのでしょうね。
戦争は人を修羅にする
この物語には戦争によって修羅になってしまった人が出てきます。
訓練ではなく、初めて人に向けて銃を撃つ場面は、本なのに目をそむけたくなりました。
寝る時間もなく移動して体力の限界だったり、戦闘で生きるか死ぬかの境界線にいたりすると、それまでとは考え方がガラッと変わってしまう。
「まとも」なままだったら、殺し合いなんてできないですよね。
誰だって、他人を殺したいとは思わない。だがそれでも、殺さなければならぬときがあるのだ。
他人の命を奪うことで、自分の生がすでに自分のものではなくなってしまったことを自覚するのである。
そうして、生を奪われた状態から、陛下の御心とともに蘇り、真の犠牲的精神を持った「修羅」が誕生する。
引用:『地図と拳 (集英社文芸単行本)』電子書籍P293
憲兵の安井の言葉です。
私には全く意味がわかりませんでした。
安井は陛下のため皇国のためになると心から信じて、中国人をだまして殺しても、罪悪感を持たない。
でも安井が正しいかどうかは別として、今の日本人に、国のため日本人のために動いている人がどれだけいるだろうかと考えてしまいました。
会社の中でも、会社のことよりも部下のことよりも自分のことしか考えていない人だらけなのに、国を守ろうなんて人は絶滅危惧種になっていそうですね。
安井の時代の犠牲的精神と今の個人主義。
どちらも行き過ぎではないかと私は思います。
『地図と拳』のレビュー
ここからは、他の人はどう感じたのか、本作品のレビューを紹介します!
私も人物を書きながら読んでいたんですけど、多すぎて途中で止めちゃいました。
重要人物は数人なので、それだけ押さえておけばOKです。
確かにロマンスはほとんどなかったんですよね。
本筋に関係ないけど、ちょっとくらい入れとくか、という程度に感じました。
そして、今この人何歳くらいなの?って何回か思いましたね。
5族協和となっていたら、、、
満洲がそうなっていれば、戦争を世界からなくすことができたでしょうね。
まとめ
第168回直木賞を受賞した『地図と拳』を紹介しました。
ずっしりとした重厚な物語を読みたいときにうってつけの作品となっています。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
『地図と拳』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら専用リーダーがあると、目が疲れなくて楽ちんですよ。
小川哲さんの作品は、2024年本屋大賞にノミネートされた『君が手にするはずだった黄金について』もおすすめです。
ぜひ合わせてご覧ください。