2023年本屋大賞第2位に輝き、第25回大藪春彦賞を受賞、第6回未来屋小説大賞第1位を獲得した『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒著をご紹介します。
この本は、1冊でいろいろな要素を楽しめます。
まずはスパイものの緊張感、
本なのに音楽が聞こえてくるような感覚、
主人公の橘が変わっていく様子の巧みな心理描写、
さらに読んでいく中で想像していたものとは全く違う結末。
そんな『ラブカは静かに弓を持つ』についてまとめましたので、参考にしていただけたら幸いです。
『ラブカは静かに弓を持つ』について
タイトル | ラブカは静かに弓を持つ |
著者 | 安壇美緒 |
出版社 | 集英社 |
発売日 | 2022年5月2日 |
この本は、JASRAC(日本音楽著作権協会)とヤマハ音楽教室の著作物使用料徴収を巡る対決という、実話を元にしたフィクション作品です。
潜入調査というと、警察が行うとか、飲食店にお客として行くというイメージでした。
2年間も“生徒”として通わせ調査させたことが、実際にあったということに驚きです。
著者について
- 安壇美緒
- 北海道函館市出身。早稲田大学第二文学部卒。
- 主婦のかたわら、小説を書き、2017年に「天龍院亜希子の日記」で小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。
小説家としての経歴はまだ短いですが、今後の作品が楽しみな作家さんですね。
本のあらすじ
橘樹(たちばなたつき)は少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇する。
それ以来、深海の悪夢を見るようになって不眠症を患い、人と深くかかわりを持たずに孤独に生きてきた。
著作権を管理する会社に勤める橘は、ある日上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
見どころ
スパイものの緊張感と、音楽のすばらしさを味わえます。
孤独に生きてきた橘が、音楽教室に通うようになって心境の変化が訪れる。
避けてきたチェロを再び弾き始めたこと、仲間ができたこと、チェロを教えてくれる浅葉先生との関係。
欺いて潜入捜査をしていることにだんだんと葛藤していく様子が見どころになります。
胸がぎゅっと締めつけられ、涙してしまうところがいくつかありました。
本を読んだ感想
『ラブカは静かに弓を持つ』を読んだ私の感想をまとめました。
音楽ってすごい
音は振動が伝わって消えていくもの、それの連続が音楽。
なのに心が揺さぶられます。
昔聴いていた音楽を聴いて、当時の状況や心境を思い出し、涙することもありますね。
聴く音楽によって、気分が昂ったり、落ち着いたり、情景が浮かんだり。
たかが“音”なのに、影響力がすごいです。
主人公の橘は、再びチェロを弾くようになって、また浅葉先生の演奏を聴いて、心と体に変化が起きました。
音楽療法というものがあるくらい、音楽というのは私たちの心身に影響を及ぼすものなのですね。
音楽療法には不安や痛みの軽減、精神的な安定、自発性・活動性の促進、身体の運動性の向上、表情や感情の表出、コミュニケーションの支援、脳の活性化、リラクゼーションなどの効果があげられます。
引用:健康長寿ネット
本の中でも曲が何曲か出てきます。
聴いたことない音楽なのに、読んでいると何となく音が聞こえてくるようなそんな感覚に襲われました。
それほど著者の表現力がすばらしいです。
読んでるのに聴こえるってすごいです!
仲間って素晴らしい
橘は同じ浅葉先生の生徒たちの会合(飲み会)に呼ばれたことで、“仲間”ができます。
ただ集まって楽しい話をする。
頑張って話さなきゃとか、好かれようと頑張ったりしなくていい。
ただその場にいていい。
そんな友達とも違う、利害関係のない、居心地のいい場所を見つけてしまいました。
橘はそんな仲間たちをも欺いていることが苦しくなっていきます。
潜入調査がなければ出会ってなかった仲間。
経歴を偽っていない普通の橘として仲間になれてたら、どんなに良かっただろうと思いました。
信頼とは
秋葉先生や仲間たちは橘のことをよく見て、よくわかっていたんだなと思いました。
経歴とかが嘘だったとしても、人間の本質は繕えないという秋葉先生の言葉が染みます。
潜入捜査を超えて培ってきたものがあった。
空いてる時間の全てをチェロの練習に費やした。
仲間たちとの会合に行かなくてもいいのに、参加し続けた。
個人的な弱みをお互いに話せる間柄になった。
そうしていく中で橘の本質をみんなが知っていって、あの結末になったんだと思います。
まとめ
スパイ、音楽、感動の要素をもった本『ラブカは静かに弓を持つ』を紹介しました。
スパイものや音楽が好きな人、日常生活にスパイスが必要な人はぜひこの本を読んでみてください。
最後までこの記事を読んでくださってありがとうございました。
こちらの本屋大賞受賞作品もおススメです。ぜひご一読を。