この記事では、第151回直木賞にノミネートされた千早茜さんの『男ともだち』を紹介します。
若いときは特に男女の関係が人生の大きな部分を占めますね。
今の若い人は違うのかもしれませんが、私の若いとき(2、30年前?)はそうでした。
この物語の主人公は、恋人がいて、気が向いたときに会う不倫相手もいながら満たされない。
男女の関係では本当に満たされるということはないのかもしれない。
仕事でも将来についてや、やりたいことができているのかに対する不安や悩み。
自分の軸をどこに置けばいいのかを考えさせられる物語です。
『男ともだち』を読んだ感想をまとめましたので、興味を持って下さった方はぜひ最後までご覧ください。
『男ともだち』について
タイトル | 男ともだち |
著者 | 千早茜 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2014年5月26日 |
ページ数 | 262P(電子書籍) |
フリーのイラストレーターをしている女性の苦悩の物語です。
アラサーと言えば、今後の自分の生き方について悩むお年頃ですね。
そのリアルな葛藤が描かれています。
著者について
著者である千早茜さんのプロフィールです。
1979年、北海道江別市生まれ。立命館大学文学部卒業。
2008年、「魚」で第21回小説すばる新人賞受賞。受賞後「魚神」と改題。
2009年、『魚神』で第37回泉鏡花文学賞受賞。
2013年、『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞受賞、第150回直木賞候補。
2014年、『男ともだち』で第151回直木賞候補、15年、同作で第36回吉川英治文学新人賞候補。
ほかの著書に『桜の首飾り』『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』『からまる』『あやかし草子』『眠りの庭』『森の家』『西洋菓子店プティ・フール』『夜に啼く鳥は』など。
引用:『男ともだち (文春文庫)』(千早 茜 著)
第166回直木賞を受賞した『しろがねの葉』もそうですが、世界観を色で例えると濃いグレーのような感じです。
決して明るくはないんですよね。
でもサクサクと読めちゃう、世界観にグッと引き込まれる。
そんな不思議な力をもつ作家さんだと思いました。
『しろがねの葉』を紹介している記事があります。
興味のある人は合わせてご覧になってください。
『男ともだち』のあらすじ
イラストレーターの神名葵は、 恋人(彰人)と同棲しているが、妻子のある医師(真司)と不倫している。
仕事も順調にもらえるようになり、恋人も愛人もいるのに、むなしさを感じていた。
ある時、大学時代のともだち「ハセオ」から7年ぶりに連絡がくる。
ハセオとはお互いに恋人がいながら、誰よりも一緒の時間を過ごした相手だった。
見どころ
ハセオと再会したことで神名の心理や彰人、真司との関係が変わっていくところ 。
そして、神名の心に隙間ができたのはなぜなのか、それを埋めるものは何なのか。
そのあたりが見どころになります。
まぁまぁクズな人が次々登場します。
その辺もお楽しみください(;^_^A
『男ともだち』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんですよ。
『男ともだち』を読んだ感想
それでは私が本作品を読んでみた感想を述べていきます。
目の前のことに一生懸命生きること
よそ見をしないで、目の前のことに集中することが、精神安定には必要なことだと思いました。
無心でやったらいいんだ。そしたら気付けば時間は経ってる。
(中略)
ついつい考えてしまうお前には難しいかもしらんが、目の前のことだけを見ろ
引用:『男ともだち (文春文庫)』(千早 茜 著)電子書籍P87
過去のことをウジウジ考えたり、先のことに不安でしょうがなくなったりするなら、今目の前のことに集中すること。
淡々と今やるべきことを無心でやる。
それがマイナス思考にとらわれないコツなんですね。
そして他の人や余計な情報を見ないようにすることも大事です。
私は離婚して間もないころに、このことを痛感しました。
日曜日に出かけると、幸せそうな家族連れを見てしまいます。
「家庭をうまく維持できなかった、私だけダメな人間だな」と思って落ち込みました。
でも家で料理をしたり掃除をしたりしていると、気持ちが落ち着いてきます。
何も考えず体を動かすって精神安定につながるんですね。
神名の悩みに対するハセオの言葉で思い出しました。
変わらないものなんてない
変わらないでほしいと願うことって割とありますよね。
でも変わらないものなんてないということを再確認させられました。
「あのな、全部変わるんだよ」
「え」
「別に悪いことじゃねえ。前も言ったように、変わるのが嫌なら先に捨てていったらいいんだ。その分、新しいもんが入ってくる。お前には必ず入ってくる。(後略)」
引用:『男ともだち (文春文庫)』(千早 茜 著)電子書籍P228
これもハセオの言葉です。
神名とハセオの関係には私はちっとも憧れなかったんですけど、ハセオの言葉には胸がドキュンとしました。
容姿も考え方も生き方も人間関係も、変わらないものはない。
でもそれは悪いことではない。
そして「変わるのが嫌なら先に捨てたらいい」という考え方は衝撃でした。
確かにそうですね。
先に捨てれば変わったのを見なくて済みます。
でも私はそもそも、変わらないで!と何かに執着したくはないです。
あ、変わったのね、と変化も楽しめる余裕を持っていたいと思いました。
男性に受けた被害は一生女性の心に傷を残す
子どものころに男性に受けた被害の犠牲者がこの本にも出てきました。
心の傷は一生癒えることはない。
男性を信じられなくなって、普通の異性関係を築くことができなくなるんですよね。
このような話はたくさんの本に出てきますので、珍しくないことなんだと思います。
表立ってなくても、傷ついている女性がたくさんいる。
そのことに胸が痛みました。
一生心に傷が残るほどではなくても、ほとんどの女性が「気持ち悪い」という思いをしたことがあるのではないかと思います。
この「気持ち悪い」という感覚は男性には理解してもらえないでしょうね。
私はもういいおばさんになって、キモいと思う機会はほとんどありません。
ですが、この本を読んで、若いときに持っていた気持ちを思い出して、嫌な気持ちが蘇りました。
最後に
第151回直木賞にノミネートされた千早茜さんの『男ともだち』を紹介しました。
仕事に、異性関係に、自分の生き方に悩むアラサー女性の物語です。
その時期を過ぎた人には懐かしく感じたり、渦中にいる人には共感できたりするお話だと思います。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
男性に受けた被害で人生が狂ってしまったた女性の物語に興味のある人は、こちらもぜひ合わせてご覧ください。