【感想】第170回直木賞候補『なれのはて』加藤シゲアキ

直木賞
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2023年下半期の第170回直木賞の候補作が発表されました。

候補作は次の6作品です。

受賞作の発表までに候補作を全部読んで、私なりの予想をしたいと目論んでいます。

1作目として加藤シゲアキさんの『なれのはて』を読んでみました。

加藤シゲアキさんと言えば、有名なアイドルですよね。

アイドルが書いた本、と読む前は先入観たっぷりでしたが、見事に裏切られました。

こんな壮大なストーリーを書くことができるなんて!

その驚きと感動をみなさんと共有したいと思いました。

『なれのはて』を読んだ感想と口コミをまとめましたので、ぜひ最後まで読んでください。

この本はこんな人におすすめ
  • 直木賞に興味のある人
  • 壮大な構成の物語が読みたい人
  • 重い話をじっくり読みたい人

『なれのはて』について

タイトルなれのはて
著者加藤シゲアキ
出版社講談社
発行日2023年11月1日
ページ数486P(電子書籍)

「なれのはて」とは聞いたことはありますが、どんな意味なのか調べてみました。

「なれのはて」とは、落ちぶれた姿。最終的に行き着いた状況のこと。

物語の登場人物の中で思い当たる人が何人かいます。

ページ数も多めで、内容も重めなので、時間があるときにじっくり読むことをおすすめします。

著者について

著者である加藤シゲアキさんのプロフィールです。

1987年生まれ、大阪府出身。青山学院大学法学部卒業。「NEWS」のメンバーとして活動しながら、2012年1月に『ピンクとグレー』で作家デビュー。

’21年『オルタネート』で吉川英治文学新人賞と高校生直木賞を受賞。

ほかの著書に『閃光スクランブル』、『Burn.─バーン─』、『傘をもたない蟻たちは』、『チュベローズで待ってる〈AGE22〉〈AGE32〉』(全2冊)、『できることならスティードで』、『1と0と加藤シゲアキ』。

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)

作家としてデビューしてから10年以上経っているのですね。

本業が忙しいのに、合間を縫って、これだけの重厚な物語を書けるなんて本当に驚きました。

小説に対する強い気持ちが作品にも表れていると思います。

『なれのはて』のあらすじ

守屋はJBCの報道局にいたが、ある事件をきっかけにイベント事業部に異動となる。

守屋の指導員となった吾妻は、自分が所持している1枚の絵で展覧会ができないかと考えていた。

展覧会を開くには絵の著作権を持っている人を特定する必要がある。

二人は絵に描かれているサイン「ISAMU INOMATA」について調べることにした。

見どころ

私が考えるこの本の見どころです。

  • 「ISAMU INOMATA」が誰なのか、生きているのか、を探っていくうちに明らかになる猪俣家の人々の闇。
  • 戦争でできた心の傷が、どれだけ残された人の人生を狂わせてしまうのか。
  • どんなにあがいても人生が思い通りにいかなかったとき、人をどのように変えてしまうのか。

とにかくいろんな要素がてんこ盛りなので、見どころがこれ!と一言で表すのは難しいです。

ぜひ本を読んで確かめてみてください。

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『なれのはて』を読んだ感想

それでは『なれのはて』を読んでみた感想を述べていきたいと思います。

ありきたりだけど、戦争はあってはならない

焼野原

どちらが悪いわけでもない。石油が悪いわけでもない。全て戦争が悪いにもかかわらず、ふたりの関係を決定的に損なってしまった。

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)電子書籍P120

たった一日。それだけでどれほどの人が救えたか。国を恨むにはあまりにも理由がありすぎる。

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)電子書籍P321

ありきたりな感想ですけど、戦争は決してあってはならないことだと思いました。

秋田にある「猪俣石油化学株式会社」の創業者である猪俣傑(いのまたすぐる)とその弟である勇(いさむ)。

二人の仲を引き裂いたのは戦争です。

1945年8月14日、終戦の前日に秋田に空襲がありました。

秋田の土崎は石油が出て油田があったため、アメリカに狙われました。

その一日が勇を全くの別人にしてしまいました。傑との関係も。

秋田だけではありません。満州においても、その他の戦地についても、たった一日でも終戦が早ければ、どれだけの命が救えたか。

もっと言えば、戦争そのものがなければ、死ななくてもいい命はたくさんありました

息子はあなたの描いたビラを見て戦争に行きました!

あなたの描いた鶴のようになりたいと言って!そのまま戻ってこなかった!あなたのせいで!

なのにどうして!あなたは平然と生きているんですか!

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)電子書籍P423

勇は仲間の銃が暴発して足にけがを負い、走ることができなくなったため、プロパガンダのビラを描くように命じられました。

戦後、息子を亡くした老婆が勇の家にやってきて、このように勇を責めます。

誰かの何かのせいにしなければ、心が保てなかったのでしょう。

でも、ビラを描いた人が悪いのでしょうか。

平然と生きているわけでもないし、描きたくて描いたわけでもない。

この時代に生き残った人で、心に傷を負っていない人は誰もいないのではないでしょうか。

身内や知り合いを一人も亡くしていない人はいないのではないでしょうか。

傷を負ったもの同士で責めて、一体何になるのでしょう。

今この時も戦争が行われています。

戦争がなくなる日が来ることを心から願います。

本を読むことは素晴らしい

読書する少年

もっともっとたくさんの本を読みなさい。

そうすれば自分と似た境遇の人がたくさんいることがわかるでしょう。

辛いのはじぶんだけではないとわかるでしょう。

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)電子書籍P381

現在の猪俣石油化学株式会社の社長である猪俣輝。

彼は父親が誰かを知りませんでした。

自分が誰の子で、どうして産まれてきたのか。

それを知ることは辛い現実を知ることでした。

その準備としてたくさん本を読みなさい、と言われます。

本を読むといろんな人の人生を疑似体験できますね

時代も性別も身分も違う様々な人の人生を。

今を生きている自分だけでは経験できないことを疑似体験し、疑似体験することで感情も動く。

嬉しかったり悲しかったり、胸をぎゅっと掴まれたり、涙を流したり。

たくさんの本を読めばたくさんの経験をできます。そして知識が増えます。

辛くても苦しくても自分だけではないこと。

自分よりもっと辛い立場の人がいることを知ることができる。

本を読むことの醍醐味ですね。

私は目が見える限り、本を読み続けたいと思いました。

自分もいつ獣の目になるかわからない

不機嫌なクマ

誰しもが、初めから人ならざるものを秘めているのだ。

それはいつだって虎視眈々と機を待っていて、情念に駆られた途端その姿を露にする。

引用:『なれのはて』(加藤シゲアキ 著)電子書籍P435

誰しもが、人ならざるものを秘めている。なんて恐ろしい。

でもそうではないと言い切れないと思いました。

いつどんな時も自分が正常でいられるなんて自信はない。

何があっても犯罪を犯さないか、人を殺してしまわないかと言ったら、そんな自信はありません。

追い詰められたらどう豹変するか自分でも予想がつかない。

いかに追い詰められる状況を作らないか、そこに行かないようにするか、にかかっていると思いました。

『なれのはて』口コミ・レビュー

他の人の口コミが気になったので、調べてみました。

いくつか紹介しますね。

おそらくファンの人の感想ですね。

重厚なテーマにエンタメ性、まさしくそんな本でした。

私も圧倒されました。

読後はずっしりとした重みを感じました。

これ、すごくわかります。良かったというツイートはファンの人が多かったです。

でも私はファンではなく、アイドルの書いた本なんて、とマイナスから入ったのにとても良かったので、ほんとに良い本だと思います。

ラストは途中から予想できてしまいました。

それなのに感動できたので、著者の力量がすごいのだと思います。

最後に

第170回直木賞候補作『なれのはて』を紹介しました。

アイドルが書いた本ということを忘れて、物語の世界に没頭できる本です。

まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。

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第170回直木賞候補となっている作品について、選考委員気取りでまとめた記事がこちらです。↓

興味のある人はぜひご覧ください。

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