この記事では、2024年本屋大賞10位になった小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』を紹介します。
この本は、著者である小川哲さんが主人公の物語です。
誰だって生きているだけでたくさんのことが起きているはずですよね。
でも小川さんの周りでは、特に面白いことが起きているようです。でも本当にそうでしょうか。
物の見方、考え方によって面白くとらえられたり、感慨深いものになったりする。
わたしにも小説にできるくらい面白いエピソードがはあったのではないかと思い出したくなる物語です。
そんな『君が手にするはずだった黄金について』を読んだ感想をまとめました。
興味を持って下さった方は、ぜひ最後まで読んでください。
『君が手にするはずだった黄金について』という本について
タイトル | 君が手にするはずだった黄金について |
著者 | 小川哲 |
出版社 | 新潮社 |
発行日 | 2023年10月18日 |
ページ数 | 215P(電子書籍) |
本作品は、6編が収録された短編集です。
6編とも著者が主人公の物語で、時系列になっています。
ページ数も多くはないので、キリのいいところで一旦読むのを止めることもできて、読みやすい本でした。
著者について
著者である小川哲さんのプロフィールです。
1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。
2015年、「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。
2017年刊行の『ゲームの王国』で第31回山本周五郎賞、第38回日本SF大賞を受賞。
2019年刊行の短篇集『嘘と正典』は第162回直木三十五賞候補となった。
2022年刊行の『地図と拳』で第13回山田風太郎賞、第168回直木三十五賞を受賞。同年刊行の『君のクイズ』は第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞している。
引用:新潮社公式サイト
この本の読み始めで、著者は哲学的な思考のめんどくさい人なのかな、と思ってしまいました。
でも、そんな風に考えたことなかった!そんな考え方があるのか!と新たな視点に触れることができて、良い体験をさせていただきました。
見どころ
あまり交友関係が広そうでない(失礼ですね)著者の周りで起きる面白い出来事を、著者がどのように捉え、どのような考えに至るのか、が見どころです。
『君が手にするはずだった黄金について』を読んだ感想
『君が手にするはずだった黄金について』は、次の6編で構成されています。
- 「プロローグ」
- 「三月十日」
- 「小説家の鏡」
- 「君が手にするはずだった黄金について」
- 「偽物」
- 「受賞エッセイ」
各編ごとに、心に残った言葉や感想を述べていきたいと思います。
「プロローグ」
「プロローグ」は、小川さんが就活して最終的には小説家としてデビューするまでの話と、恋人の美梨との出会いから別れまでの話です。
物語の中に、印象に残った言葉がありましたので、紹介します。
そもそも僕はどうして就職をしようとしているのだろうか
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P29
なぜ就職するのかを考えたことがありませんでした。
なぜ、とかではなく、当然のこととして疑問に思ったことがなかったのです。
わたしが学生だったときは、今ほど就職以外の選択肢がありませんでした。
でも就職が絶対ではなかったはずですよね。
なのに周りでも他の選択肢を検討している人はいませんでした。
自分の人生について、行動について、なぜそうするのかを考えてこなかったことに衝撃を受けました。
次に印象に残った言葉です。
読書について、書き手と読み手の関係について、かなりの文字数を割いて書かれていますが、一部だけご紹介します。
本は多くの場合、一人の人間によって書かれ、一人の人間によって読まれる。
その一対一の関係性の中に、なんらかの奇跡が宿る
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P25
百パーセント言語によって構成された本という物体が、どうして言語を超えることがあるのだろうか──少なくとも、言語を超えたような錯覚を得ることができるのは、どうしてだろうか。
その秘密はきっと、読書という行為の孤独さの中にある。
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P26
小説家だけあって、本に対する熱い思いが感じられますよね。
読書の格言について記事を書いたばかりですが(読書好きなあなたに贈る【読書に関する格言15選】)新たな格言になると思いました。
読者には誰でもなれますが、書き手には誰でもはなれません。
奇跡を起こせる書き手に対し、ますます尊敬の念を抱くようになりました。
「三月十日」
「三月十日」は、東日本大震災があった2011年3月11日の前日は何をしていたのかを思い出そうとする物語です。
震災のあった当日のことなら、誰でも詳細に覚えている。
でも前日のこととなると、自分でも思い返してみましたが、まったく思い出せませんでした。
小川さんはまず、震災当日の行動から前日のことを推測します。
ところが、どうも辻褄が合わない。
そこで前のスマホを引っ張り出してきて、メールを確認しました。
どういう思いでどういう行動をとったのか、ありありと思い出します。
もしかしたら僕は、それ以外にも多くの記憶を自分の都合のいいように改竄しているのかもしれない
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P62
記憶がすり替わっているということは、よくあるのではないかと思いました。
自分の都合のいいように変えてしまっていることが。
わたしも事実だと思い込んでいる出来事があるに違いありません。
なので、昔のことを断言するのは控えようと思いました。
三月十日に何をしていたか調べていた僕は、自分が今まさに三月十日を過ごしているという想像ができていなかった
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P65
小川さんは三月十日の調査に夢中になっている間に、ショックなことが起きました。
地震に限らず、明日衝撃的な起こるかもしれない。
今日が「三月十日」かもしれない。
そう思って一日一日を大切に過ごさないと後悔するかもしれないと思いました。
「小説家の鏡」
「小説家の鏡」は、高校の同級生の妻が占い師にだまされて、会社を辞めて小説家になると言いだした。
インチキを暴いて洗脳を解こうと悪戦苦闘する物語です。
同級生と2人で作戦を練って、まずは同級生が、次に小川さんが占ってもらいに行きます。
こうやって人は洗脳されていくのか、と勉強になりました。名前の付いた手法があることも知りました。
この話でも、印象に残った言葉があるので紹介します。
なかなか捕まらないセクハラ男は、セクハラをしても泣き寝入りしそうな弱い立場の人を選ぶ。
昇進していくパワハラ野郎は、パワハラを訴えない相手を選んでハラスメントをする。
それと同じように、優秀な詐欺師は人を騙すのが上手なだけではない。容易に騙せるカモを見抜くのがうまいのだ。
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P94
セクハラもパワハラも詐欺も、相手を選んでいるということですね。
わたしは、セクハラとパワハラはありませんが、詐欺にひっかりそうになったことは何度かあります(;^_^A
カモだと思われたのでしょうね。
被害に合わないためには、選ばれないようにしないといけません。
みなさんもご注意下さい。
もう1つ紹介します。
「自分はこれから会う占い師のことが好きだ。そして占い師は僕のことが好きだ」と繰り返した。マインド・スクリプトという、他者に好かれるためのもっとも簡単なテクニックだ
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P98
「マインド・スクリプト」という言葉を始めて知りました。
小川さんは、胡散臭く思っていることを出さないために、自己暗示をかけて、占い師に挑みました。
「マインド・スクリプト」は、デートや面接などでも効果があるそうですよ。
私もいざというときに使ってみようと思います。
「君が手にするはずだった黄金について」
「君が手にするはずだった黄金について」は、高校の同級生片桐が詐欺を働くようになった話です。
この話の冒頭で、道徳的な規律に基となる「黄金律」について書かれています。
自分がしてほしいことを他人にしましょう
黄金律を裏返すと、
自分がしてほしくないことは他人にしないようにしましょう
ただし、
「黄金律」と「銀色律」には大きな罠がある。
「自分がしてほしいこと」や「自分がしてほしくないこと」には人それぞれ違いがあるということだ
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P112
良かれと思ってしたことが余計なことだった、ということが起こり得るんですよね。
自分はしてほしいけど、人はしてほしくないかもしれない。
この罠のことを考えすぎると、人に何かするためには勇気が必要になりますね。
またこの話でも、始めて知る言葉がありました。
この本はとても勉強になります。
「ポンジ?」
「そういう名前の詐欺のことだ。『高い利回りで資産運用しますよ』って言って金を集めるんだけど、実際には投資をせずに配当だけを渡す詐欺だ。
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P140
ポンジという詐欺があるそうです。
誰かにお金を預けるのは恐ろしいことだと貧乏人のわたしは思いました。
「ポンジで億万長者になることはできない。そのうち絶対に破綻するし、最後には借金以外何も残らない」
「どうしてそんなことをする必要があるんだろう……」
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P142
投資をしないのだから、いつか破綻するのはわかっている。
それなのにどうしてそんなことをするのか。
これだけ大きなお金を動かしている、と一時的には名声を得ることができるでしょう。
でもその後破綻するのだから、一生の不名誉になりますよね。
一時の名声のために、一時人を喜ばせるためにするには、あまりにも博打すぎると思いました。
「偽物」
「偽物」は、ババリュージという漫画家の話です。
ババは、ロレックスの偽物の時計をはめていました。
それを見た同級生の轟木は、信用できないなど散々なことを言います。
「ババさんみたいなタイプってこと?」
「そうだよ。おとなしそうに見えるんだけど内面はギラギラしてて、ギラギラしてるってことはコンプレックスの塊なんだ」
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P160
おとなしそうに見えるけど内面はギラギラしてる人はコンプレックスの塊ね、メモメモ・・・
ほんと、この本は勉強になります。
見た目や身につけているものだけで他人を判断するな、と主張していた割に、僕だって日頃からそうやって他人を判断してしまっている。
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P163
見た目や身につけているものだけで他人を判断・・・してしまっていますね・・・
ちょっとググれば、ブランドもので身を固めている人はこんな人とか、
こういう眉の形の人はこんな人だとか、たくさん情報が出てきます。
情報の通りに人をみて判断してしまっている。
そういう目でしか見ていないので、違ったじゃんってことにはならない。
なので、情報は正しいと思っている。と、訳のわからないループの中にわたしはいます。
結局ババが信用に足る人であったのかは、本を読んでご確認くださいませ。
「受賞エッセイ」
「受賞エッセイ」は、著作が山本周五郎賞の最終候補になった話と、クレジットカード詐欺にあった話と小説が出来上がるまでの話です。
小川さんの哲学的で面白い思考が良くわかる一節がありました。
「小説家」という名前のくせに、「小説家」の家は存在しない。
「小説家」はむしろ、どの家に入ることもできず、道端でうろうろしている人たちの集合だ。
引用:小川哲『君が手にするはずだった黄金について』電子書籍P207
小説家を、そんな風に見たことがありませんでした。
○○家について、家が存在するとかしないとか、考えたこともありません。
小説家が、小説家とは何かを一番悩んでいるということはよくわかりました。
最後に
2024年本屋大賞10位になった小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』を紹介しました。
普段思ってもみない考え方に触れることができて、有意義な読書時間を過ごすことができます。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
『君が手にするはずだった黄金について』は電子書籍にもなっています。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると、目が疲れなくて、ストレスなく読書ができますよ。
片桐のように詐欺ではなく、投資で稼ぎたいと思っている人に、通信で学べるコースがありますよ。
2024年本屋大賞ノミネート作品をまとめた記事があります。ぜひご覧になってください。
小川哲さんの作品では『君のクイズ』もおすすめです。
ぜひ読んでみてください。