この記事では、第168回直木賞候補となった雫井脩介さんの『クロコダイル・ティアーズ』を紹介します。
この作品はミステリー小説です。
ミステリー小説って、あーすっきりはっきりした、と終わるものばかりではないんですね。
そして、ただでさえ上手くいきにくい嫁姑問題に、事件の容疑もプラスされて、昼ドラのようなドロドロな人間関係が展開していきます。
そんな『クロコダイル・ティアーズ』を読んだ感想をまとめました。
ドロドロなミステリー小説に興味を持った人は、ぜひ最後までご覧ください。
『クロコダイル・ティアーズ』について
タイトル | クロコダイル・ティアーズ |
著者 | 雫井脩介 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2022年9月26日 |
ページ数 | 331P |
「クロコダイル・ティアーズ」の和訳は「ワニの涙」ですね。
作品中に出てきますが、英語では「ウソ泣き」という意味だそうです。
ミステリー小説自体が明るい話ではありませんが、この本はなかなかの暗さでした(;^_^A
メンタルが落ち込んでいないときに読むことをおすすめします。
著者について
著者である雫井脩介さんのプロフィールです。
- 愛知県生まれ。専修大学文学部卒。 出版社や社会保険労務士事務所に勤務。
- 1999年 新潮ミステリー倶楽部賞を受賞して作家デビュー。
- 1999年『栄光一途』で第4回新潮ミステリー倶楽部賞
- 2004年『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞
私は本作品しか読んだことありませんが、一度読んだら忘れられないような小説を書く作家さんなのかな、と思いました。
『クロコダイル・ティアーズ』のあらすじ
久野貞彦は美濃焼の陶器を扱う老舗「土岐屋桔平」を経営している。
後継ぎとなる一人息子の康平がいて、孫(那由太)もいて、将来は安泰だと思っていた。
ところがある日、康平が何者かに刺されて亡くなってしまう。
犯人は、康平の妻である想代子の元交際相手。
康平に対する逆恨みの犯行と思われたが、判決後に犯人は奇妙な発言をする。
見どころ
私が思う本作品の見どころは次の通りです。
『クロコダイル・ティアーズ』は電子書籍でも読めます。専用リーダーがあると、目が疲れが楽になりますよ。電子書籍リーダーは必要?【使ってみた正直な感想】
『クロコダイル・ティアーズ』を読んだ感想
それでは、この作品を読んだ感想を述べていきます。
本音がわからない人は気味が悪い
人はわからないもの、理解できないものには“怖い”という感情が起きる生き物だと思います。
このような人はこういう状況ではこうするだろう、という経験に基づいた予測をしますよね。
予測と全く違う反応をする人に対して、薄気味悪さを感じてしまいます。
暁美が放った遠慮のない言葉に、その瞬間瞬間では顔色を変えるのだが、少し時間がたてばもう何事もなかったかのような様子である。
だからだろうか、可哀想なことを言ったとか、罪悪感のようなものもあまり湧いてこない。
引用:雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』P118
暁美は、想代子に対して気味悪さを感じていました。ずっと最後まで。
暁美の姉である東子が、想代子が流した涙を「クロコダイル・ティアーズ」(ウソ泣き)だと言いました。
感情とか体温とか感じられない。
爬虫類に例えたのが秀逸だと思いました。
いつもいつも何事もソツなくこなす人。
想代子のように本音が見えない人は、良くも悪くも、見ようによってはどうにでも見えてしまうものだと思いました。
人によって出来事に対する見方が違うのが面白い
立場によって、1つの出来事に対する見方・解釈が全く違うのが面白いと思いました。
貞彦と暁美では、想代子に対するスタンスが違います。
敵と味方かのように真逆の立場ですね。
貞彦が命と同じくらい大事にしている2つの陶器がなくなった事件。
想代子が関わっているように見えてしまう状況をどうとらえるか。
対立が生まれますが、どちらも客観的には見えていないんですよね。
フィルターがかかっています。
思い込みや、そう思いたい気持ちというのは、いつも普通にあると思います。
事が起きた時に、冷静に客観的に判断することの難しさを感じました。
軽く見られがちなDV被害
DV被害というのは、軽く見られがちなのかも、と思いました。
想代子が康平にDVを受けていたことを、貞彦も暁美も知っていました。
でも康平にやんわり注意するだけ。
自分の息子だから仕方がないのかもしれませんけど、ちゃんと助けてはくれませんでした。
継続的にではないですけど、私も暴力を受けたことがあります。
怒鳴られただけでもダメージはあるのに、暴力は心と体が傷つき、ダメージが大きいですよね。
DVが日常的に行われていたなら、殺意が芽生えても不思議ではないと思ってしまいます。
殺さないで逃げることができればいいけれど、子どもがいて、働いていなければ簡単ではありません。
そうやって逃げられないのをわかっていて行うDVは卑怯だと思います。
一度で暴力を止めなかった人からは、逃げるしかない。
暴力を受けた人が悪いわけでもないし、暴力を止めてくれるかも、と期待しない方がいい。
一刻も早く逃げるべきだと私は思います。
それにしても、想代子は元彼からも康平からも暴力を受けていました。
私も暴力を受けたのは、1人からだけではありません。
そういう人を引き寄せてしまう何かがあるのかもしれませんね。
最後に
第168回直木賞候補となった『クロコダイル・ティアーズ』を紹介しました。
人間関係のドロドロとすっきりしない結末、だけど忘れられない物語です。
人ってこういうところあるよなぁ、と人間について思考をめぐらす『クロコダイル・ティアーズ』を、まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
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