【感想】第171回直木賞候補『令和元年の人生ゲーム』

直木賞
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この記事では、第171回直木賞にノミネートされた麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』を紹介します。

この本には、Z世代の生態が描かれています。

Z世代とは、1996-2012年に生まれた若い世代を指す。2024年時点では9歳から28歳にあたる。

ゆとり世代、さとり世代、Z世代、、、

昭和のおばさんからしたら、どの世代もジェネレーションギャップがあって、お互いにわかり合うのは難しいという印象を持っていました。

でも、生きづらさを抱えていない世代なんてないんですよね。

それぞれが落としどころを見つけて精一杯生きているということが、この本を読んでわかりました。

そんなこの本を読んだ感想をまとめましたので、ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。

この本はこんな人におすすめ
  • Z世代について知りたい人
  • 自分の生き方に自信がない人
  • 直木賞に興味がある人

『令和元年の人生ゲーム』について

タイトル令和元年の人生ゲーム
著者麻布競馬場
出版社文藝春秋
発行日2024/2/21
ページ数233P(電子書籍)

この本は、4話で構成されています。

自分で決めない人や多数派に属する人たち。

その人たちを一歩引いたところから見ている主人公の僕や私(名前は出てきません)。

そして全話に出てくる異色な存在、沼田さん。

それぞれが仕事について、人生について、自分の立ち位置について悩み葛藤します

どの人も他人事に感じられず共感しまくりで、読みながら苦しくなる場面もありました。

ざきざき
ざきざき

特に、沼田さんの一挙手一投足が興味深かったです。

著者について

著者である麻布競馬場さんのプロフィールです。

1991年生まれ。慶應義塾大学卒。

2021年から Twitter に投稿していた小説が「タワマン文学」として話題になる。

2022年、ショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』でデビュー。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)

著者はZ世代ではないんですね。

Twitterで小説を投稿するというのが、もうおばさんにはついていけないです。

でも作品はとても読みやすく、Z世代の考え方も学べましたし、知識欲が刺激されました。

見どころ

多数派にいると思っていた主人公たちが疑問に思い、多数派から出て独自路線に行く過程。

多数派ではない「例外」の人の中でも異色な沼田さんがどのように変わっていったのか。

このあたりがこの本の見どころになります。

『令和元年の人生ゲーム』を読んだ感想

それでは本作品を読んだ感想を各話ごとに述べていきます。

第1話 平成28年

キャンパスライフ

2016年春、徳島の公立高校を卒業し上京して慶応義塾大学に入学した僕。
数あるサークルの中から選んだのは、ビジコン運営サークル「イグナイト」
イグナイトの代表吉原さんは、高身長で清潔感のある髪形、誠実で優しい性格の「完璧」な人。
「イグナイトでなりたい自分を実現してくれたら」と吉原さんは言ったが、自分はどうなりたいのだろうと僕は悩みだす。

周りの人たちを見ながら、なりたい自分探しをする僕の話です。

壮大な夢物語は語るが、「いつか」「できれば」のために努力している様子がないサークル員たち。

「完璧」な人間だと思っていた吉原さんのことがだんだんわかってきて、最後に僕が下した評価が、私の心にグサッと刺さりました。

自分は自分の言葉で自分の責任で自分の人生を生きているだろうか、と自問自答してみると、、、

程度の差はあれど、誰の影響も受けないなんて不可能ですよね。

私も誰かの受け売りで生きている気がします。

そう、まだ余裕で間に合うのだ。

この道が間違っていたとしても、僕の目の前にはまだまだ、無限の道があるに違いない。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P49

若いうちは、若くなくても、人生はやり直せる。

違うな、と思ったら方向転換することができる。

そうしていくうちに「なりたい自分」が見つかるのかもしれない。

これが「なりたかった自分」だと気づくのかもしれない。

初めから「なりたい自分」がわかっている人は、そんなにいないのではないかと思いました。

ツンデレなので誤解されやすい沼田さん。

誰よりも吉原さんを理解し、近くにいてサポートしたかったのに、片思いでした。

第2話 平成31年

女性の営業マン

2019年4月、早稲田大学を卒業して、人材系最大手企業パーソンズエージェントに入社した私。
ワクワークバイト営業部に配属される。
同期の人たちは新人賞を狙うと公言しながら「仕事だけが人生じゃないじゃん」と言って定時で帰る。
私は、仕事で成果が出てきて上司とも合うので、仕事に満足し残業もしている。
同期の人たちと仕事のスタンスの違いに思うところがありつつ、家では完璧な母親に対して窮屈に感じていた。

Z世代特有の、快適な人との距離感が書かれていました。

でも、人は矛盾する生き物なんですね。

課長とは無機質で公平な関係が心地良いと思う。

同期で一番仲良しの由衣夏ゆいかには、与えた分の愛が返ってこないことにモヤモヤする。

完璧に支えてくれる母親に対しては、無償の愛が息苦しいと思う。

何を選んで何を残すか、私たちはみんな違う人間なのだ。

それなのに、分かり合おうなんて、同じ方法で愛し合おうだなんて、おこがましいのだろう。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P49

相手によって求めるものが違うなら、合わせることなんて不可能なんじゃないかとすら思えます。

どこかで、まぁいいかと妥協すること、相手に求め過ぎないことが大事なのだと思いました。

2話にも登場した沼田さんの望む働き方は、、、

総務部あたりに配属になって、クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P49

花形の営業部や経営企画部ではなく、総務部を希望とは。

でも50を過ぎた私も、このような働き方がいいです。

それにしても同期入社の意識高い系の人たちが、そんな沼田さんを、総務部の仕事を下に見ていることに不愉快になりました。

総務の仕事って「なんでも」です。

誰にでもできると思ったら大間違いだぞ、と心の中で叫びました。

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『令和元年の人生ゲーム』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんです。

第3話 令和4年

シェアハウス

2022年4月、社会人7年目の僕はチューターとして大学生向け大型シェアハウスに入居することになった。
チューターとは学生の指導係。
運営会社に勤めているという理由でチューターのリーダーを任させる。
意識高くクラクラするほどまぶしい経歴の学生たち。
その中には、Z世代である彼らと僕たちチューターとをいちいち線引きしてくる学生がいた。

3話では、Z世代はこうなんだという説明がいくつも登場します。

脇谷という学生が、いちいちZ世代は、、、と言ってくれます。

例えば、、、

僕たちZ世代は、下積みと称してやりたくもない仕事を何年も何年もやらされたり、会社の都合でライフプランを無視した激務や転勤を強要されたりすることを避ける傾向にあるから、なんでサラリーマンやってるのか、純粋に気になっちゃっただけで……

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P116

そのZ世代が「正しいこと」に固執して、裁判まで始めたところには恐怖を感じました。

そして3話では、チューターの1人として沼田さんが登場します。

沼田さんが脇谷に言った言葉が深いなと思いました。

脇谷くん、人間は価値を生むための装置でもないし、競争で勝つための機械でもないんですよ。

さっきも聞いてて思いましたが、君は他人の目を気にしすぎてるんじゃないですか? 

僕みたいに、下らない人生ゲームから降りてしまって、コースの外でのんびり猫でも撫でてるほうが幸せですよ。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P163

人生ゲームを楽しんでいる人ならいいですよね。

でも苦しくなっているなら、いっそ下りてしまった方が楽になる。

下りたからダメな人だというわけではなく、向いている人と向いていない人がいるんだと思います。

第4話 令和5年

銭湯

2023年4月「杉乃湯の未来を考える会」に参加した僕。
杉乃湯は高円寺の老舗銭湯で、若者向けのイベントを開催するなどして注目を集めていた。
PR会社に勤める同僚の真鍋と共に、会社以外で活躍の場を得るために参加するも、徐々に考え方が合わなくなる。

4話では、杉乃湯4代目オーナー寛人さんの片腕として沼田さんが登場します。

しかし、沼田さんの変わり様に驚きました。

パーソンズを辞め、シェアハウスも退居し、行きついた立ち位置は、寛人さんの完全なサポート役でした。

寛人さんが興味を持ち、無責任に発言したことをすべて形にしていく。

沼田さんは仕事ができる人ですね。

なりたい自分にやっとなれたと言っていますが、その割には笑顔が作り物のようです。

しかし、そんな日々の中で沼田さんは辛そうにしているかというと、彼の顔にはむしろ、いつだって笑みが浮かんでいた。

どこか人工的な雰囲気すら感じる、あの笑顔。  その奥に、僕は不穏な陰を感じることが何度かあった。

引用:『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場 著)電子書籍P191

本当になりたい自分だったのかは疑問に思いました。

沼田さんの話から思ったのは、完璧になりたい自分になるのは不可能なのだろうか、ということ。

そうなると、希望がないですよね。

沼田さんにしても、僕の最後の決断にしても、何だかモヤモヤしたまま終わりました。

まだまだ人生ゲームは続くので、そんなラストだったのかもしれません。

沼田さんのその後を知りたいと思いました。

最後に

第171回直木賞にノミネートされた麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』を紹介しました。

自分で決断しないたくさんの人が出てきますが、自分で決めないという決断もあります。

そんな様々な人々の決断の話から、自分はどうするのがふさわしいのか考えてみるのはいかがでしょうか。

まだ本作品を読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。

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