この記事では、第171回直木賞を受賞した一穂ミチさんの『ツミデミック』を紹介します。
この本は、6編の“犯罪”短編集です。
タイトルの「ツミデミック」という言葉は造語でした。
なかなか秀逸ですよね。
コロナのパンデミックと言えば、マスク、緊急事態宣言、自粛、休業などなど、、、
コロナ禍で仕事がうまくいかなくなったり職を失ったりして、人生に影響を受けた人々の恨みつらみを感じる物語たちです。
この本を読んだ感想を各編ごとにまとめました。
ぜひ最後まで読んで、本選びの参考にしていただければ幸いです。
『ツミデミック』について
タイトル | ツミデミック |
著者 | 一穂ミチ |
出版社 | 光文社 |
発行日 | 2023年11月22日 |
ページ数 | 231P(電子書籍) |
この本は6編の短編集となっていて、構成は次の通りになっています。
- 「違う鳥の羽」
- 「ロマンス☆」
- 「憐光」
- 「特別縁故者」
- 「祝福の歌」
- 「さざなみドライブ」
3編までは、とんでもない本を読み始めちゃったと正直思ってしまいました(;^_^A
全話がこの調子だと後味が悪すぎるな、、、と。
でも4話から毛色が変わり読みやすくなりますので、ご安心ください。
パンデミックが人間に及ぼす影響が、怖いくらいに描かれていますよ。
著者について
著者である一穂ミチさんのプロフィールです。
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。劇場版アニメ化もされ話題となった『イエスかノーか半分か』などボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。
2021年に刊行した、初の単行本一般文芸作品『スモールワールズ』が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか、直木賞、山田風太郎賞の候補になるなど大きな話題に。
主な著書に『ふったらどしゃぶり When it rains, it pours』、「新聞社」シリーズ、『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』(山本周五郎賞候補)など多数。
引用:一穂ミチ『光のとこにいてね』
一穂さんの作品は、2023年本屋大賞第3位となった『光のとこにいてね』を読みました。
その本は、同い年の女の子2人の長年に渡る絆の物語で、本作品とは系統が随分違ったので驚きました。
『光のとこにいてね』の詳しい紹介記事があります。
気になった人はぜひ合わせてご覧ください。
『ツミデミック』を読んだ感想
それでは本作品を読んだ感想を、各編ごとに述べていきます。
「違う鳥の羽」
20歳の優斗は大学を1年で中退し、焼き鳥屋の客引きをしている。
ある日いつものように客引きをしていると、マスクをした若い女性が近づいてきた。
仕事が終わるまで待つという彼女と仕事終わりにバーへ行く。
彼女は「井上なぎさ」と名乗る。
優斗の知る井上なぎさは、中三の時に線路に飛び込んで死んでいた。
世にも奇妙な物語のようなお話です。
全編がそんな感じなんですけどね。
なぎさを名乗る女性は、幽霊なのか、本人なのか、なぎさの親友なのか。
それにしても、なぎさが受けていた体罰がえげつなくて、目をそらしたくなりました。
テストの点、百点から一点下がるたびに一時間説教されんねん。九十八点やったら二時間、九十五点やったら五時間。
風呂場で、裸で正座して。眠たくなって舟漕いだら冬でもシャワーで冷水浴びせられて。
勉強もお行儀も全部減点法、マイナスのぶんだけ罰を受けなさい、ママはそんな人。
引用:一穂ミチ『ツミデミック』電子書籍P28
傷を残さないやり方で執拗に。父親は完全にシカト。
救いがないですね。
こんな目に合っていたら死にたくなりそうですけど、なぎさは違います。
「親を苦しめたい」
だからといって、すごいことを思いつくもんだと思いました。
現実的とは思えなくて、ただただ恐ろしい話でした。
「ロマンス☆」
百合は4歳になる娘のさゆみと手をつないで歩いているとき、自転車に乗ったミーデリ(出前)の配達員とすれ違う。
その男性は、現実離れした美しい容貌をしていて、百合の脳裏に焼きつき、また会いたいと思っていた。
隣人からミーデリを安く頼む方法を教わった百合は、さゆみが幼稚園に言っている間ミーデリを頼むことが日課になる。
本当に恐ろしい話だと思いました。
イケメンの配達員に当たるまで、ガチャを引くような感覚でハマっていく。
そのハマり方が尋常じゃないんです。
コロナが夫を変え、夫婦関係を変え、妻を変えた。
娘に薬を盛ることにも、人を殺すことにも罪悪感を抱かないほどに。
我慢の限界を超えた時、人間はより大きな反動に出てしまうのかもしれないと思いました。
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「憐光」
15年前に豪雨によって死んだ唯は、骨が発見されたことで、地元に戻ってくる。
と言っても、何にも触れられないし、誰にも見えない姿となっていた。
自宅に行こうと電車で最寄り駅に着くと、親友のつばさと高校の担任杉田先生が待ち合わせ。
2人は唯の家に向かうところだったので、車に便乗することにした。
この話も現実にあるとは思いたくない、恐ろしい話でした。
唯は、ただ豪雨で流されて死んだのではありませんでした。
そしてつばさのように、飲食店のバイトのお金とまかないをあてにして生きていた若者がたくさんいたんだろうなと思いました。
そのような人たちが、コロナで受けた打撃は相当なものでしたね。
「お金がない」ということが人の心をどれだけ荒ませるのか。
それにしても、つばさも杉田先生もクズでした。
「特別縁故者」
飲食店に勤めていた恭一は、コロナ禍で人員整理の対象となり、無職で就職活動も上手くいっていない。
ある日7歳の息子の隼が、近所のおじいさんに聖徳太子の旧一万円札をもらってくる。
なんだかんだ言ってその一万円札を隼から奪い、今でも使えることを確認した恭一は、おじいさんの家にお礼がてら探りに行く。
最終的にはとてもいいお話でした。
それまでの3話が後味の悪い話だったので、正直ほっとしました。人も死ななかったですし。
といっても恭一もクズです。
旧札の1万円札が束でたくさんあったと隼から聞いて、もっともらえないかと浅ましい考えでおじいさんに近づきました。
願わくば「特別縁故者」になって遺産相続できないか、とも。
でも心根は悪い人ではなく、それを見抜いて助けてくれる人もいました。
悪いことばかりではないし、悪い人ばかりではないと思えました。
「祝福の歌」
達郎の母は、80代で一人暮らしをしている。
時々出勤前に様子を見に行っているが、お隣さんの様子が気になると母は言う。
赤ちゃんが産まれるはずが泣き声もしないし、奥さんの顔色も悪いと。
一方、娘の菜花は高校生なのに妊娠していて、産むと言って母親を困らせていた。
達郎のお母さんのお隣さんに訪れた不幸は、パンデミックとウクライナ情勢が原因でした。
こんな世の中になるなんて、誰も想像していませんでしたよね。
思い起こせばパンデミックの3年間は、コロナ婚やコロナ離婚もたくさんありました。
先行きが不安になり、みんながこのままでいいのかと考えましたね。
この編は、「犯罪」と呼べるかどうか微妙な罪のお話でした。
そして、ありえないくらい次々といろんなことが降りかかる達郎が思ったこと。
考えることがありすぎて頭の中はぐちゃぐちゃだが、そんな自分の傍に、妻と娘が当たり前にいてくれることが嬉しかった。
引用:一穂ミチ『ツミデミック』電子書籍P178
私も、当たり前にいてくれる人のことを大事にしなきゃと思いました。
「さざなみドライブ」
ツイッターで集められた5人の「パンデミックで人生を壊された人」たちが集合した。
目的は、みんなでこれから死ぬこと。
練炭を積んだ「動物園の冬」さんの車で移動する途中、順番になぜ死にたくなったのかを話し出す。
結果オーライでしたけど、これも恐ろしい話でした。
この数年で起きたこと、
魔女狩りのような執拗な糾弾、マスク警察、マスク・消毒液の買い占め・転売などなど、、、
これがコロナで露わになった人間の本質だったのでしょうか。
集まった5人の中に悪魔が1人いました。
それもパンデミックのせいなのか、そうでなければサイコパスなのか。
こんな人間がいると信じたくありませんでした。
でも、それぞれが死にたくなった事情を話していくうちに情がわき、仲間意識が芽生えたところは、とても人間らしい話だと思いました。
最後に
第171回直木賞を受賞した一穂ミチさんの『ツミデミック』を紹介しました。
良くも悪くもパンデミックで世の中が変わり、生活が変わりました。
そして人の心に受けた影響をまざまざと思い起こさせる物語です。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
『ツミデミック』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ちんですよ。
第171回直木賞を受賞・ノミネートされた作品のまとめ記事があります。
ぜひ合わせてご覧ください。
一穂ミチさんの作品は『スモールワールズ』もおすすめです。
ぜひ合わせてご覧ください。