今回は、2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの作品『流浪の月』を紹介します。
『汝、星のごとく』もそうでしたが、凪良ゆうさんの作品は、私の心をグサグサと容赦なく刺してくるなぁと思いました。
自分が普通だと、常識人だと思っていたら大間違いだぞ、
そもそも普通って何?普通じゃないって何?と問われているかのようです。
この本の感想は、面白かった!感動した!など一言ではとても言い表せません。
読んでいる途中で、いろいろな感情が交錯しました。
でも読み終わったときには、なんだか晴れ晴れとした気分になりました。
そんな『流浪の月』の感想を、グッときた言葉を紹介しながらまとめましたので、ぜひ最後まで読んでください。
『流浪の月』について
タイトル | 流浪の月 |
著者 | 凪良ゆう |
出版社 | 東京創元社 |
発行日 | 2019年8月30日 |
2020年本屋大賞を受賞し、映画化もされています。
映画を観て原作が気になった人もいますよね。
私はまだ映画版を観ていないのですが、原作の世界観がどのように映像化されたのか気になります。
著者について
著者である凪良ゆうさんのプロフィールです。
- 滋賀県生まれ。 2006年「小説花丸」に掲載された中篇「恋するエゴイスト」でデビュー。2007年『花嫁はマリッジブルー』が初著書となる。
- 2020年 『流浪の月』で第17回本屋大賞を受賞
- 2023年 『汝、星のごとく』で第20回本屋大賞を受賞
- 2023年 『汝、星のごとく』で第10回高校生直木賞を受賞
短期間に『流浪の月』と『汝、星のごとく』の2作品が本屋大賞を受賞されていますね。
読んだ人の心を揺さぶり、物語の世界へ引きずりこむ力のある作家さんだと思います。
『流浪の月』のあらすじ
更紗(さらさ)は父と母と3人で幸せに暮らしていたが、小学生の時、父が亡くなり、母は恋人といなくなった。
伯母の家で暮らすことになったが、夜になると伯母の息子の孝弘に部屋に侵入され、体中触られるようになる。
家に帰りたくない更紗は、友達と別れた後、公園に戻って日暮れまで本を読むのが日課になった。
その公園には「ロリコン」と言われている男(文ふみ)がいつもいて、更紗や友達が遊んでいるのをじっと見ていた。
ある日いつものように公園で本を読んでいたら、雨が降り出してくる。
傘をもっていない更紗は濡れてしまったが、帰りたくないのでそのまま座っていた。
すると、傘を差し出した文に「うちに来る?」と声をかけられる。
それから更紗と文の人生が大きく変わっていくことになる。
見どころ
ある事件の加害者と被害者になった文と更紗。
それはほんとうに事件だったのか。
事件がなくても生きづらかった二人が、事件の当事者になってどのようにさらに生きづらくなっていくのか。
そして生きづらさや孤独から抜け出すために、二人がどのように決断するのかが見どころになります。
『流浪の月』を読んだ感想
それでは『流浪の月』を読んだ感想を、心に響いた言葉を紹介しながら述べていきます。
インターネットの恐ろしさ
インターネットは便利なだけでない、その恐ろしさを物語から痛感しました。
未成年だからといって、なにも守られたりはしないのだ。善良な人たちの好奇心をみたすために、どんな悲劇も骨までしゃぶりつくされる。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P88
わたしの知らない誰かが、どこかでわたしを見ていて、インターネットに投稿し、それを見ている人たちもいる。とんでもない恐怖だった。常に監視されているのだという前提で、わたしは余計なことは話さず、心を開かないことで、わたしを守るしかなかった。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P110
犯人が未成年だからと実名は伏せて報道されたとしても、インターネットではすぐにどこの誰かが特定されてしまいます。
そして、真実かどうか関係なく、真実であるかのように情報が飛び交います。
わたしたちは何の罪悪感もなく、それを面白おかしくネタにしたりしますよね。
もしかしたらすぐそばに当事者がいるかもしれないのに。
文や更紗のように事件から15年経っても忘れられず、生活が脅かされるなんて、恐ろしすぎます。
そしてインターネットの情報を見るときは、真実かどうかわからないと一歩引いた目で見る必要があると思いました。
本物の愛
本物の愛とは何だろう、何をもって本物というのだろうと思いました。
世の中に『本物の愛』なんてどれくらいある?よく似ていて、でも少しちがうもののほうが多いんじゃない?
みんなうっすら気づいていて、でもこれは本物じゃないからと捨てたりしない。
本物なんてそうそう世の中に転がっていない。だから自分が手にしたものを愛と定めて、そこに殉じようと心を決める。それが結婚かもしれない。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P140
更紗の結婚に対する考えです。
私はそもそも恋人や夫婦の間に本物の愛なんてないと思っていますので(かわいそうな人と思われるかも)、なるほどと納得しました。
本物の愛だから、ではなく、決意だというところがグッときました。
まがいもの。愛とよく似ているけれど、愛ではない。亮くんは自分の空洞を満たしてくれる誰かを欲しているだけだ。わたしも似たようなもので、それが今夜露わになった。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P177
この言葉はグッサリ刺さりました。
若い時の私は亮くん(更紗の恋人)みたいだったからです。
暴力は振るいませんでしたけど、さびしさから彼氏に依存して振り回し困らせました。
当時自分では愛だと思っていましたが、今思うと愛ではなかったとはっきり言えます。
わたしは、どうか文が幸せでありますようにと願っている。
(中略)
心から、今、幸せでいてくれますようにと。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P108
二人がバラバラになってしまってからも、更紗はいつも文のことを思い出し、幸せを願います。
彼女はどうしているだろう。どうか幸せでいてほしい。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P291
そして文も、更紗に幸せでいてほしい。と願います。
相手の幸せを思うのが愛だとどこかで聞いたことありませんか?
そうであるなら、更紗と文はお互いを愛している、本物の愛と言ってもいいのではないかと思いました。
名前のない関係
名前のある関係というのは、わかりやすいので受け入れられやすいですよね。
親子、恋人、夫婦、友達などなど。
でも名前の付けられない関係というのはあるし、その方が何だか尊いように思いました。
わたしは文が好きだ。あの女の人といるのを見たとき、大事ななにかを失った気がしたけど、それは恋とか愛とか、そういう名前をつけられる場所にはない。どうしてもなにかに喩えるならば、聖域、という言葉が一番近い。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P130
わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。
(中略)
わたしと文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P301
更紗と文はいわゆる性的な男女の関係ではない。
男女の関係は性的なものだけではない。
そういうのを抜きにして、相手を必要とする関係というのもあると私は思います。
一人の人間として、誰よりも理解し合える人なんて、簡単に見つかるものではありません。
一生見つからないかもしれません。
そのような人に出会えたことだけを見れば、二人を羨ましいと思いました。
事実と真実はちがう
いくら言葉を尽くして説明しても、先入観があって思い込んでいる人に、真実をわかってもらうことは難しいのだと思いました。
白い目というのは、被害者にも向けられるのだと知ったときは愕然とした。
いたわりや気配りという善意の形で、『傷者にされたかわいそうな女の子』というスタンプを、わたしの頭から爪先までぺたぺたと押してくる。みんな、自分を優しいと思っている。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P75
更紗は何度も、あれは事件ではない、文はそういう人ではないと、周りの人にわかってもらおうとしましたが、聞く耳を持ってもらえませんでした。
言えば言うほど「かわいそうな被害者」という思いを強くさせたのでしょう。
事実と真実はちがう。
そのことを、ぼくという当事者以外でわかってくれる人がふたりもいる。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P309
真実をわかってくれる人がいれば、心強いし、孤独になることはありませんね。
希望の光が見えて良かったと思いました。
そして事実だけを見て、先入観で凝り固まることのないようにしたいと思いました。
理解できる範囲を飛び越えてしまうことも世の中にはたくさんあります。
事実と真実は違うということを忘れないようにしたいです。
まとめ
2020年本屋大賞を受賞した『流浪の月』を紹介しました。
思うところがたくさんあって記事が長くなってしまいましたが、これでもほんの一部の紹介でした。
『流浪の月』は、小説を読むメリットの一つである「他人の人生を疑似体験できる」の醍醐味を存分に味わえる物語です。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
『流浪の月』のように心にずっしりと響く作品が好きな人は、こちらもぜひご覧ください。
映画版『流浪の月』が気になっている人は、アマゾンプライムで視聴できます。
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女の子2人の名前のない関係の物語もあります。
『光のとこにいてね』もぜひ合わせてご覧ください。