この記事では、第156回直木賞にノミネートされた須賀しのぶさんの『また、桜の国で』を紹介します。
ロシアと日本のハーフで外交書記生の青年が、赴任地のポーランドで第二次世界大戦に巻き込まれていく物語。
ポーランドのために戦う国境を超えた人々の絆に感動し、悪魔のようなドイツ軍の所業やユダヤ人の運命に怒りと悲しみを覚えます。
あまりなじみのないポーランドで起きた出来事を、ポーランド側の立場から知ることができ、貴重な体験ができました。
恥ずかしながら、私はポーランドという国のことを何もわかっていなかったです。
何度も地図上から名前が消えた国。
そんなポーランドでの物語を読んだ感想をまとめました。また作品中に出てくる名言も紹介いたします!
ぜひ参考にして、本作品を手に取っていただけたら幸いです。
『また、桜の国で』について
タイトル | また、桜の国で |
著者 | 須賀しのぶ |
出版社 | 祥伝社 |
発行日 | 2016年10月12日 |
ページ数 | 545P(電子書籍) |
ポーランドが舞台となっている物語です。
政治も文化も言葉も違う国によって、「分割と統合」を何度も繰り返した国。
島国である日本人にとって、想像を絶する苦難を味わってきた国なんですね。
そんなポーランドと日本に関わりがあったことを、この本で知りました。
ソ連との戦いで親を失い、シベリアに残されたたくさんの孤児たち。
日本が手を差し伸べて、765人の孤児たちを祖国に帰したんだそうです。
同じくヨーロッパで、人助けをした日本人がいましたね。
リトアニアの日本領事館の杉原千畝さんです。
杉原さんはユダヤ人を逃がすために、日本通過ビザを独断で発給して、多くの人を救いました。
ひと昔前の日本人は、男気があったんだなとつくづく思いました。
著者について
著者である須賀しのぶさんのプロフィールです。
1972年、埼玉県生まれ。上智大学文学部史学科卒業。1994年、「惑星童話」でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞しデビュー。
2010年、『神の棘』が各種ミステリーランキングで上位にランクインし、話題となる。
2013年、『芙蓉千里』(三部作)で第12回センス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞。
2016年、『革命前夜』で第18回大藪春彦賞を受賞。
近著に『くれなゐの紐』『エースナンバー』など。」
引用:『また、桜の国で』(須賀しのぶ 著)
本作品で直木賞にノミネートされています。
私は読んでいて途中まで、男性が書いた著作だとばっかり思っていました。
文体が女性らしくないというか、男性のようだったからです。
柔らかさのようなものを感じないというか、、、
でも物語が進むにつれて、そんなことはどうでもいいくらい引き込まれました。
『また、桜の国で』のあらすじ
第二次世界大戦直前のポーランド。
ロシアと日本人のハーフで外交書記生の慎は、赴任先のポーランドに向かう電車の中で、ユダヤ人の青年ヤンと知り合う。
少年時代にポーランドの少年(カミル)との出会いもあり、ポーランドに特別な思いのある慎は、ドイツとの戦争を回避するため奔走する。
ドイツの日本大使館と協力して条約締結を模索したが成功せず、首都ワルシャワにドイツ軍が攻めこんでくる。
見どころ
ポーランドの運命と慎、ヤンそしてカミルの3人の運命はどうなっていくのか。
また、3人が抱える「祖国」に対する思いは、戦争によってどのように変わっていくのかが見どころになります。
『また、桜の国で』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら専用リーダーがあると、目が疲れなくて楽ちんですよ♪
『また、桜の国で』を読んだ感想
それでは、本作品を読んだ感想を述べていきますね。
戦争に負けるということ
この物語から、戦争に負けるとはどういうことなのか思い知りました。
宣戦布告なしにドイツ軍が攻め込んできて、ポーランドはあっという間に占領されてしまいます。
そして、首都ワルシャワの人たちがどうなったかというと、、、
こんな感じです(;^_^A
これまでの生活や生き方が全否定されて、人として扱われずに、いとも簡単に殺されていきます。
戦争に負けると、人ではなくなるのだと思い知りました。
人としての尊厳は自分で守る
本作品は、人としての尊厳を守れるのは自分しかいないのだと教えてくれました。
ドイツは、ユダヤ人を虫けら以下として扱い、ユダヤ人を本気で根絶しようとしていました。
狂ってますよね。正気とは思えません。
ですが、そのような扱いをされている方も、見ている方も影響を受けてしまうようです。
でも、あんな光景を日常的に見ていれば皆、麻痺してくるものよ。それが普通だと思うようになって、いつしか同じことを、ためらいもなく私たちにし始める。
友人だと思っていた人が、ある日突然、笑いながら拳をふりあげてくるようになる。
私たちはみんな、その恐怖をよく知っている。そしてナチスは、人をそういうふうに仕向けることに長けているわ。
引用:『また、桜の国で』(須賀しのぶ 著)電子書籍P271
恐ろしいですね。
最初は助けてあげられないことに心を痛めていた友人たちが、笑いながら拳をふりあげるようになる。
ナチスがそう仕向けている。人の心理をよくわかっているんですね。
そして、
一度に全てを奪われて、私はもう、ナチが言うように下等人種の虫けらに成り下がったように感じていました。
ある意味、ユダヤ人を最も差別していたのは、私自身だったのでしょう。
私は、人間です。何をされようと、私がそれを忘れないかぎり、ドイツ人と、そしてポーランド人と全く同じ存在です。
引用:『また、桜の国で』(須賀しのぶ 著)電子書籍P303
虫けらの扱いに慣れると、自分で自分を虫けらとして扱ってしまう。
でも誰が何と言おうが、どんな扱いをされようが、自分だけは自分のことを人間だと忘れてはダメなんですね。
自分の尊厳は他の誰でもない、自分が守ることを忘れないようにしたいです。
「祖国」に対する思い
「祖国」とは「国」とは何かということが、物語の一つのテーマになっています。
この物語の主要な登場人物が3人とも「祖国」に対して複雑な気持ちを持っていました。
それは3人の生い立ちが関係しています。
こんな複雑な3人が、ポーランドのために命を懸けて戦ったことに胸が熱くなりました。
平和な時には、祖国に対する思いも希薄になるのかもしれませんね。
今、日本のために命を懸けられる人は、どれほどいるでしょうか。
日本人だということに誇りを持てる人は、どれくらいいるのでしょうか。
祖国に対する思いは、日本がなくなる危機になって発動されるものかもしれない、と思いました。
『また、桜の国で』の名言
ここからは、本作品で出てきた名言を紹介します!
人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう
引用:『また、桜の国で』(須賀しのぶ 著)電子書籍P13
これは慎が学校で教わった言葉です。
私が小学校の時は、こんなこと教えてもらえませんでしたね。
人に何かをしてあげるとき、報いを求めてしまっていることに恥ずかしくなりました。
人は他人の思想を借りて自分の思想とするかぎり、自分にも、自分の行いにも最後まで責任を持つことができない。
自ら考え、自ら信じるところに従って動く時のみ、全責任を負うことができるのだ。
氾濫する言葉に流されず、足を地面につけ、自ら打ち立ててこそ信念と呼べる
引用:『また、桜の国で』(須賀しのぶ 著)電子書籍P436
この言葉はグサグサ刺さりました。
人の思想を自分のものにしてしまうこと、、、あります。
「信念」とはそういうものではないんですね。
どんな時も、自分で考えて動くことを忘れないようにしないとです。
以上、私がグッと来た名言をご紹介しました。
最後に
第156回直木賞にノミネートされた須賀しのぶさんの『また、桜の国で』を紹介しました。
第二次世界大戦によるポーランドの運命と、命を懸けて戦った青年たちの目を通して、国や自分自身のアイデンティティを考え直すきっかけとなります。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
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