この記事では、2016年本屋大賞にノミネートされた中脇初枝さんの『世界の果てのこどもたち』を紹介します。
戦争は良くないこと、あってはならないことだと誰もが思っていますよね。
それはたくさんの人が死ぬからです。
でもそんな一言では片づけられないことが、この本を読んでわかりました。
『世界の果てのこどもたち』は3人の少女が戦争に巻き込まれる話ですが、戦争は大人も子供もどのように変えてしまうのか、戦争の残酷さがわかる物語です。
本を読んで私の心に響いた言葉と感想をまとめましたので、ぜひ最後まで読んでください。
『世界の果てのこどもたち』について
タイトル | 世界の果てのこどもたち |
著者 | 中脇初枝 |
出版社 | 講談社 |
発行日 | 2015/6/18 |
この本は2016年本屋大賞第3位を獲得しています。
途中で読み進めるのをつらく感じるところが続きます。でも読んで良かった、この本に出会えてよかったと思いました。
できれば、中高生や若い人たちに読んでもらいたいです。
若いときに読んで、年を重ねてから読み返すと、また違った感想になりそうな本ですね。
著者について
著者である中脇初枝さんのプロフィールです。
- 徳島県に生まれ、2歳の時から高知県で育つ。
- 1991年 高知県立中村高等学校に在学中、小説『魚のように』で第2回坊っちゃん文学賞大 賞を受賞し、作家デビュー。
- 2005年 『祈祷師の娘』で第52回産経児童出版文化賞推薦を受賞。
- 2013年 『きみはいい子』で第28回坪田譲治文学賞を受賞。
- 2017年 『ちゃあちゃんのむかしばなし』で第64回産経児童出版文化賞 JR賞受賞。
3人の少女の1人、珠子は高知県の出身です。
高知の方言や村の詳細な描写は、著者が高知で育ったことが土台となっているのですね。
『世界の果てのこどもたち』のあらすじ
高知の貧しい農村から満州へ移住し、のびのび生きていた珠子
朝鮮人で、差別はありながらも珠子たちと仲良くなり楽しく生きていた美子(ミジャ)
戦時中も変わらず恵まれた環境で、横浜に暮らしていた茉莉
国民学校1年生のとき、貿易商の父に連れられた茉莉が満州へやってきて3人は出会う。
次第に戦局は悪化していき、3人はそれぞれ別の場所で戦争に巻き込まれていく。
見どころ
3人の少女が、戦争でどのように生活が変わり、どのように生き延びて、どのような大人になったのか、が見どころになります。
3人の人生に希望はあるのか。3人は生きて再会できるのか。
また珠子と美子の物語から、中国残留孤児と在日朝鮮人のルーツがわかるところも見どころです。
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それでは『世界の果てのこどもたち』の本の中から、私の心に響いた言葉と感想を述べていきます。
きれいな服を着たときは、胸を張って、前をむいていなさい。
きれいな服を着たときは、胸を張って、前をむいていなさい。
きれいな服は着ていない。でも、なにも人に恥じるようなわるいことをしているわけじゃない。
引用:中脇初枝『世界の果てのこどもたち』電子書籍P95
この言葉は、下を向きそうになったときに思い出したい言葉になりました。
美子は、日本人の友達に自分が朝鮮人だとバレたくなくて、母を隠してしまったことがありました。
その時に思い出したのが、「きれいな服を着たときは、胸を張って、前をむいていなさい。」という茉莉が言った言葉です。
美子は二度と母を隠すような恥ずかしいことはしないと決意します。
朝鮮人というだけで下に見られたり、いじめられたりする。でも悪いことをしているのでなければ、胸を張って堂々としていていいんですよね。
たった1週間しか満州に滞在しなかった茉莉の言葉。
そして3人がお寺で一晩を過ごした時のエピソードが、それぞれのその後の人生を支えます。
3人の出会いは奇跡のようだと思いました。
新しい名前と引きかえに、自分の名前も忘れた。
珠子は、毎日を養父母と暮らすのに必要な中国語と引きかえに、日本語を忘れ、新しい名前と引きかえに、自分の名前も忘れた。そして、玉蘭と文成の笑顔と引きかえに、両親の笑顔を忘れた。
引用:中脇初枝『世界の果てのこどもたち』電子書籍P218
この文章は私には衝撃でした。
そんなことがあるのか、と。自分の名前も忘れてしまうものなのか、と。
玉蘭と文成は、珠子の養父母の名前です。
珠子は収容所にいるときにさらわれて、玉蘭と文成夫妻に売られました。
私は、馬車馬のように働かされる労働力として、子供は買われるのかと思っていました。
でもこの夫妻は珠子を自分の子として、宝物のように大事に育てます。
それも驚きでした。
大事にされているからこそ珠子は中国語を話せるように努力したし、養父母に笑顔になってもらいたかったのでしょう。
でも顔は思い出せないけど、実母のことは忘れませんでしたし、友達の名前も顔も忘れたけど、3人のお寺でのエピソードも忘れませんでした。自分が日本人であることも。
中国で生きていくしかなく、生きるためとはいえ、自分の名前も言葉も両親の顔も忘れてしまうのは、とても悲しいことだと思いました。
だれかの幸せのために、たくさんの人が不幸せになった。
だれかを幸せにするために、戦地へ行って、ほかのだれかを殺した。
だれかを幸せにするために、みんなで工場で武器を作り、みんなで食べ物をがまんした。
だれも、決してだれかに不幸せになってほしくはなかったのに。
それなのに、だれかの幸せのために、たくさんの人が不幸せになった。
引用:中脇初枝『世界の果てのこどもたち』電子書籍P262
これが戦争ということなのだと思いました。
茉莉は、出陣していく兄を見送り、弾を作るための金属供出に積極的だったことで、戦争に加担した。自分が人殺しをさせたと思ってしまいます。
でもその時代に、あらがって生き延びることができたでしょうか。
そして戦争で幸せになった人がいるのでしょうか。
幸せになった人がいたとしても、あまりにも犠牲が多すぎます。
たくさんの人が不幸せになることがわかっているのに、もうずーっと昔から戦争がなくならないのはなぜなんでしょうね。
「歴史は繰り返す」ではなく、「歴史から学ぶ」世の中であってほしいと思います。
その優しさを頼りに生きていける
いくらみじめで不幸な目に逢ってもね、享けた優しさがあれば、それをおぼえていれば、その優しさを頼りに生きていけるのね。それでその優しさを人に送ることもできる。
引用:中脇初枝『世界の果てのこどもたち』電子書籍P327
人から優しくされた経験というのは忘れないですよね。
辛いときにこそ、その経験は思い出されます。
珠子と茉莉は、美子にしてもらったことをずっと忘れませんでした。
そして、中国人も朝鮮人も「鬼畜米英」も日本人も、ひどいことをする人もいれば、優しくしてくれた人もいました。
国や敵味方は関係ありません。
そのことは私の胸を熱くさせました。
私も珠子や茉莉のように、うけた優しさを人に送れる人間でいたいと思いました。
まとめ
『世界の果てのこどもたち』を読んで私の心に響いた言葉と感想をまとめました。
ぜひこの本を読んで、少女たちと一緒に戦争を疑似体験してみてください。
そして戦争について考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。
同じく2016年本屋大賞にノミネートされた辻村深月さんの『朝が来る』もおすすめです。
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