この記事では、第152回直木賞にノミネートされた木下昌輝さんの作品『宇喜多の捨て嫁』を紹介します。
この作品は戦国時代の中国地方の武将、宇喜多直家の物語です。
6編で構成されていますが、直家の生涯を時系列でなぞっているのではありません。
1編ごとに時期が前後しながら主人公が変わり、違う目から見た直家が描かれています。
そして少しずつ真相と直家の人となりや苦悩が明らかになっていきます。
そんな作者の手法にお見事!と叫びたくなる物語です。
1編ごとにあらすじと感想をまとめましたので、ぜひ最後まで読んでください。
- 戦国時代が好きな人
- 武力の戦いも好きだが暗殺など智略の戦いも好きな人
- 直木賞に興味がある人
『宇喜多の捨て嫁』について
タイトル | 宇喜多の捨て嫁 |
著者 | 木下昌輝 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2014年10月25日 |
ページ数 | 380P(文庫) |
『宇喜多の捨て嫁』は戦国時代の梟雄、宇喜多直家の物語です。
文庫本の帯に書いてあった直家を指す「梟雄(きゅうゆう)」という言葉ですが、イマイチ意味がわからなかったので調べてみました。
身内の犠牲もいとわない計略家、直家のイメージにぴったりですね。
私は同じ著者の作品で、直家の息子秀家の物語である『宇喜多の楽土』(紹介記事:【感想】直木賞ノミネート『宇喜多の楽土』宇喜多秀家の波乱な生涯)を先に読みました。
『宇喜多の楽土』に出てくる直家に梟雄のイメージはありません。
直家が亡くなった後の話で、あまり直家のことに触れられていないからかもしれませんけど。
『宇喜多の捨て嫁』を読んで、直家は計略家で梟雄のイメージの方が一般的であることを知りました。
著者について
著者である木下昌輝さんのプロフィールです。
- 大阪府大阪市生まれ、奈良県出身。近畿大学理工学部建築学科卒。大阪文学学校で小説執筆を学び、2012年に『宇喜多の捨て嫁』でオール讀物新人賞を受賞して、作家デビュー。
- 2015年『宇喜多の捨て嫁』で第4回歴史時代作家クラブ賞(新人賞)受賞。第9回舟橋聖一文学賞受賞。第2回高校生直木賞受賞。
- 2015年 咲くやこの花賞(文芸その他部門)受賞。
- 2019年『天下一の軽口男』で第7回大阪ほんま本大賞受賞。
- 2019年『絵金、闇を塗る』で第7回野村胡堂文学賞受賞。
- 2020年『まむし三代記』で第9回日本歴史時代作家協会賞(作品賞)受賞。 第26回中山義秀文学賞受賞
- 2022年『孤剣の涯て』で第12回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞。
受賞作しか記載していませんが、デビュー作の『宇喜多の捨て嫁』でいきなり直木賞にノミネートされました。
続編ともいえる『宇喜多の楽土』も直木賞にノミネートされています。
それぞれ単独でも十分に面白さを味わえますが、「捨て嫁」と「楽土」の繋がりがわかると2倍楽しめますので、2作品とも読むことをおススメします!
見どころ
読みすすめるうちに変わっていく直家のイメージ。
やらなければやられる下剋上の凄まじさ。
身内も味方も信用できない計略だらけの乱世。
乱世の中にあっても変わらない親子の愛。
このあたりがこの本の見どころになります。
『宇喜多の捨て嫁』のあらすじと感想
『宇喜多の捨て嫁』は「宇喜多の捨て嫁」「夢想の抜刀術」「貝あわせ」「ぐひんの鼻」「松之丞の一太刀」「王道の鼓」の6編で構成されています。
1編ずつあらすじと感想を述べていきたいと思います。
宇喜多の捨て嫁

直家の四女於葉に嫁入りの話が出た。
相手は東美作を支配する後藤勝基。
後藤家の嫁取奉行である安東相馬は、於葉を「毒蛇」と罵り、歓迎していないことを隠しもしない。
それは於葉の母の実家や姉たちの嫁ぎ先に直家がしてきたことが原因だった。
直家には4人の娘がいました。
妻の富も含めて、嫁に出した娘がどうなったかというと、
妻 富 | 自害 |
長女 初 | 自害 |
次女 楓 | 気がふれる |
三女 小梅 | 主家に嫁ぐ |
直家の娘にとって、嫁入りとは「捨て嫁」になることで、殉死に等しいことです。
でも於葉は、母や姉たちと同じようにはならない、父と戦う覚悟で嫁入りしました。
戦国時代には政略結婚が当たり前で、娘も駒のように扱われるのも珍しくはありません。
けれども直家はそのレベルではない。 妻の父親(義父)を暗殺し、娘の嫁ぎ先をことごとく攻める。娘婿を暗殺する。
「捨て嫁」と呼んだのは安東相馬でした。捨て石や捨て駒のような嫁。皮肉が効いたうまい例えです。
幸いにも於葉の夫はいい人でした。でもこの時代にいい人は長生きしないんですよね。
於葉の嫁ぎ先である後藤家も直家によって滅ぼされました。
果たして於葉は父に勝ったのか。
母や姉のように死んだり気がふれたりはしませんでした。
負けたとは言えないけど、勝ったとも言えないと私は思いました。
夢想の抜刀術

直家がまだ幼く八郎と呼ばれていた頃にさかのぼる。
直家の祖父能家を暗殺した島村盛実に追われ、逃走する父の久蔵はある家にかくまわれる。
そこは福岡で舟商いをしている阿部善定の家で、妾(善定の娘)と子(虎丸)が住んでいた。
善定は、母と八郎をかくまう条件として、身分を捨て、入り婿(久蔵)に雇われた端女と連れ子になるよう要求する。
生きるために条件をのみ、みじめな生活を送っていたある日久蔵が亡くなる。
そのまま阿部家にいる理由がなくなった八郎は、浦上宗景(祖父能家の暗殺を命じた一族の一人)に仕官することにした。
直家もなかなかですが、父久蔵も相当のクズだなというのが最初に思ったことでした。
自分が助かるためなら妻も子もどうでもいい。無責任の極みですね。
だから久蔵は能家の子で直家の親でありながら、名を残せない人となったのでしょう。
また、直家は生まれながらに「夢想の抜刀術」を持つ人でした。
どんな技かと言いますと、作品の中で次のような説明があります。
もし殺意を帯びた何者かが近づけば、たとえそれが身内といえど、剣を抜きたちどころに相手を滅する
引用:木下昌輝『宇喜多の捨て嫁』文庫 P112
殺意に対して、無意識に発動される技です。
自分の命が助かる代わりに、相手が身内であっても切りつけることになります。
夢想の抜刀術が初めて使われた場面のことを思うと胸が痛みます。
非常に悲しいことだと思いました。
直家は、その時に受けた傷から定期的に血濃が出る「尻はす」という病にかかります。
その後も、この技を持つために一生苦しむことになってしまいました。
貝あわせ

八郎は初陣で手柄を立てた褒美に、乙子の城主となった。
また浦上家家老である中山備中信正の娘、富を嫁にもらう。
富が懐妊し臨月に差しかかかったある日、島村盛実(出家して貫阿弥)がやってきて、富を人質として差し出すように言ってくる。
「貝あわせ」は、読んでいてとてもつらい物語でした。
直家の身近な人が何人も亡くなったからです。
そしてこれまで抱いていた直家のイメージがガラッと変わりました。
直家は妻も子もちゃんと愛していました。
仇である島村貫阿弥や義父の中山備中と直家の関係性も素晴らしかった。
直家が妻子を死なせないために苦悩し、決断したこと。 戦国の世とはいえ、それが報われなかったことが非常に残念でした。
それにしても、主君である浦上宗景はなんというバカ殿かと思っちゃいました。
戦乱の世が狂わせたのでしょうか。狂気を感じました。
ここで直家は宗景への復讐を決意します。
この後直家はどうなっていくのでしょうか。
電子書籍で読むならkindleがおすすめぐひんの鼻

ぐひんとは天狗のことです。
浦上宗景の居城天神山城には天狗の鼻のように突き出た崖があり、ぐひんの鼻と呼ばれ聖地になっていました。
「ぐひんの鼻」の話には、この崖が要所要所に出てきます。
直家の祖父能家は宗景の兄政宗に仕えていた。
宗景は無能な兄に能家は御しきれないとして、能家を暗殺するように仕向けて殺した。
宗景は自分の野心を成就するには能家のような男が必要だと思う。
そこで八郎の母の死を利用した計略を図り、八郎が手駒として使えるか見極めることにした。
「合格」した八郎を宗景は手駒として育てる。
宗景に対抗できるほど成長し、強くなった直家。
直家は次女の嫁ぎ先を遣って長女の嫁ぎ先を滅ぼすなど、非情で恐れられるようになりました。
宗景も非情な男です。 狂ってるのかと思うほど。
非情VS非情の戦いです。
宗景の戦略にやられず、直家の強さを見せつけるところは圧巻で、胸アツでした。
でもまだまだ二人の戦いは終わらず、宗景の異常な執念が恐ろしいです。
松之丞の一太刀

宗景は長男の松之丞を直家の三女小梅の入り婿とし、宇喜多家を継がせることで弱体化させようと図る。
次々と計略を図り実行しようとする宗景だがうまくいかず、そうこうしているうちに直家の後妻に後継ぎとなる嫡男が生まれた。
直家に後継ぎができたことで、自分の身の危険を感じた松之丞は、事態を打開するためにあることを思いつく。
宗景や家老の日笠の計略とは関係なく、松之丞と小梅が仲良くなって心を通わせるようになります。
二人の関係がほのぼのとしていて、暗殺や知略まみれの物語にほっと一息つけました。
そして、小梅にしても於葉にしても、直家の血を引く娘はただの娘ではないなと思いました。
自分の意思をしっかり持っているからです。
堅き道でも(困難な道でも)それを行く、というように。
そんな娘たちを直家は誇りに思っていると感じました。
またこの話では、直家と松之丞が対比されています。
直家は松之丞のことを優しさと強さを持つものと言いました。
真に強き者は、刀を振るうべき時に振るう者です。いたずらに刃物を抜き、余人を傷つけるなどもってのほか。時にはかつての松之丞様のように、絶命の危機であっても刀を抜かぬ強さが必要なのです。
引用:木下昌輝『宇喜多の捨て嫁』文庫 P274
小梅は、松之丞は父(直家)に似ていると言います。
それに対して直家は、自分と松之丞は銭の裏表だと答えました。
直家:絶命の危機に無意識で刀を抜く。(夢想の抜刀術)
松之丞:絶命の危機でも刀を抜かない。
松之丞のような力が欲しかった、そしたら殺さなくてすんだ人がいたのに、と嘆く直家が可愛そうで仕方なかったです。
この思いの強さが、松之丞に襲われたときの行動に現れたんですね。
直家は非情なだけの男ではありませんでした。
王道の鼓

江見河原源五郎は浦上家(兄政宗)の家老だが、父に似て武にも文にも秀でたところがない。
父に教わった小鼓を打っているときだけが乱世を忘れ、心休まるときだった。
あるとき、浦上家弟の宗景の使者がやってきて、源五郎に内通を呼びかける。
誘いを断り、小鼓でもてなして返そうとするが、使者の一人岡剛介に源五郎の本心を見抜かれる。
源五郎は、宇喜多家で小鼓の技を極められる楽士の身分をもらうかわりに、主君政宗の首を取った。
源五郎は余命いくばくもなく、伏せっていることが多くなった直家のために、鼓を打ち、慰めます。
直家の人生は、尻はす(血濃)に悩まされる人生でした。
乱世ということもあり、ずっと戦い続けましたが、何のために誰のために戦ったのでしょうか。
恨みや復讐のため、私利私欲のためだけではなかったと思います。
だから小梅も於葉も直家を憎みながらも憎みきれなかったのではないでしょうか。
直家が暗殺したとされる人たちの多くは、殺したくて殺したわけではありませんでした。
身近な人の命を計略に利用したわけではない。
直家が身内を暗殺してきたという事実と、直家の意思だったかという真相が違うということがわかって、
ある本の言葉を思い出しました。
『流浪の月』(紹介記事:【感想】小説『流浪の月』名前がない関係の二人の物語)にあるこの言葉です。
事実と真実はちがう。
引用:『流浪の月』凪良ゆう P309
事実だけを見れば、直家は計略のために身内の命までも利用する非情な梟雄。
本当の直家は、真実は、どうだったのでしょうか。
この本を読み終わった後は穏やかな気持ちになって、静かに手を合わせたい気持ちになりました。
まとめ
第152回直木賞にノミネートされた木下昌輝さんの作品『宇喜多の捨て嫁』のあらすじと感想を述べてきました。
さまざまな目から見た直家の物語で構成されていて、驚きや感動もあって、満足できる歴史小説となっています。
まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。
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