【感想】2024本屋大賞第3位『存在のすべてを』塩田武士

本屋大賞
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この記事では、2024年本屋大賞第3位となった塩田武士さんの『存在のすべてを』を紹介します。

ミステリーってたいていの人が好きなジャンルですよね。

この本は、「たいていの人」ではなく、ミステリーがあまり得意でない私の心を鷲掴みにしました。

物語の世界にどんどん引き込まれ、登場人物に共感し、涙し、ラストは鳥肌がたち、感動に震えたのです。

親とは何か、愛情とは何か、何が正しいのか、そんなことを考えさせられる物語

そんな『存在のすべてを』を読んでみた感想をまとめました。

まだ読んでいない人はこの記事を参考にしていただき、ぜひ手に取って読んでみてください。

見出し
  • 愛のある物語を読みたい人
  • ミステリー小説が好きな人
  • 本屋大賞に興味がある人

『存在のすべてを』という本について

タイトル存在のすべてを
著者塩田武士
出版社朝日新聞出版
発行日2023年9月7日
ページ数499P(電子書籍)

登場人物が多く、こんなに覚えられないよと思いながら読み進めました。

しかし、パズルのピースをはめていくように真相が明らかになっていき、ラストを迎えたときには、しばらく呆然としてしまうほどでした。

ざきざき
ざきざき

読後にこんなに震えたのは久しぶりでした。

著者について

著者である塩田武士さんのプロフィールです。

一九七九年兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、神戸新聞社在籍中の二〇一〇年『盤上のアルファ』で第五回小説現代長編新人賞、一一年第二十三回将棋ペンクラブ大賞を受賞。

一六年『罪の声』で第七回山田風太郎賞を受賞、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第一位。

一九年に『歪んだ波紋』で第四十回吉川英治文学新人賞を受賞。

著書に『女神のタクト』『崩壊』『騙し絵の牙』『デルタの羊』『朱色の化身』などがある。」

引用:『存在のすべてを』(塩田武士 著)

新聞社に在籍されていたんですね。

どうりで作品中の記者に描写が細かくて、臨場感たっぷりなわけです。

私は自分からミステリー小説を手に取ることはあまりないのですが、塩田さんの作品なら読んでみようと思いました。

それくらい『存在のすべてを』はすごい本でした。

『存在のすべてを』のあらすじ

1991年12月に神奈川県で前代未聞の2児同時誘拐事件が起きる。

本命と見られた4歳の内藤亮は、警察が犯人を取り逃がしたため、生還が絶望と思われた。

ところが3年後のある日、亮は祖父母のいる木島家に戻ってくる。

事件から30年後、現場を担当した刑事が亡くなったことがきっかけとなり、 新聞記者の門田もんでんは真相の解明に動き出す。

見どころ

私が考える本作品の見どころは次のとおりです。

  • 誘拐という特殊な事件で警察がどのように動くのか
  • 内藤亮は3年間どこでどのように過ごし、誰に育てられたのか
  • 高校の同級生だった土田里穂と内藤亮の恋の行方はどうなるのか

とにかく見どころが満載の本ですよ。

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『存在のすべてを』を読んだ感想

それでは、本作品を読んでみた感想を述べていきます。

誘拐事件の警察の動きが興味深かった

張込み

誘拐事件で警察が、どのような思惑でどのように動くのかが緊張感ありありで描かれていて、とても興味深く読みました。

現場にいた刑事が、あとから振り返ったときの言葉です。

犯人との電話のやり取り、移動しているときの車中の緊迫感。若かったこともありますが、刑事人生であれほど張り詰めた現場はありませんでした。

大日さんの記事にもありましたが、誘拐は現在進行形の事件です。たった一つの判断ミスで被害者の命が失われるかもしれない

引用:『存在のすべてを』(塩田武士 著)電子書籍P135

誘拐事件というのは特殊なんですよね。

起こった事件に対して、犯人を追跡して逮捕するのとは違います。

現在進行形で動いている。

1つ1つ決断を迫られる。

ミスは許されない。

電話対応や身代金の受け渡しなど、被害者が指示通りに動いてくれるとは限らない。

パニックになって、予想もつかない行動をとる可能性もある。

事が動くたびに、犯人の人物像や意図を推測しながら次の一手を考える。

緊張感が痛いほど伝わってきて、手に汗握りました。

人には事情がある

大人に事情を話す子ども

起きた事象、事実だけを見て判断してしまうことってありますよね。

関係者を訪ね歩いて得たピースを正しく嵌め込むうちに浮かび上がってきたのは、犯罪とは対極にあるはずの「愛情」であった。

引用:『存在のすべてを』(塩田武士 著)電子書籍P237

私はこう思うんです。人には事情がある、と

引用:『存在のすべてを』(塩田武士 著)電子書籍P321

3年の空白を経て戻ってきた亮のリュックに入っていたのは、手作りのケースに収められた乳歯10本ほど。

そのケースは口の形をしていて、抜けたのがどこの歯かわかるようになっているばかりでなく、日付まで記載されていた。

誘拐される前の亮は、幸せに暮らしていたかというとそうではない。

父親は行方不明、母親はネグレクト、母親の恋人から虐待・暴力を受けていた。

誘拐された当時、亮はやせ細って髪はフケだらけの暗い顔をした幼児。

誘拐されて、不幸でかわいそうだと一概には言えないと思いました。

亮は空白の3年間、誰かに愛されて大切に育てられた。

その誰かはなぜ誘拐した子に愛情を注いだのか。

事実だけで軽率に判断してしまうことがないように、「人にはそれぞれ事情がある」ということを忘れないようにしたいと思いました。

この話を読んで、『流浪の月』の名言「事実と真実はちがう」を思い出しました。

興味のある人はこちらもぜひご覧ください。 ↓

【感想】小説『流浪の月』名前がない関係の二人の物語

本当の幸せとは何か

太陽と入道雲

特殊な環境で育ち、孤独を抱えた亮でしたが、心を開ける存在がいたことにホッとしました。

高校の同級生の里穂です。

これまでは、好きな人と結ばれることが幸せだと思ってきた。

でも、今は違う。

忘れられないほど好きな人、どんな道を歩もうともずっと太陽のように自分の心を照らしてくれる、そんな人と巡り会えることが、本当の幸せなのだと気づいた

引用:『存在のすべてを』(塩田武士 著)電子書籍P489

亮は里穂にとっては初恋の人。

でも恋愛だけに限らない、性別も年齢も関係ない。

思い出しただけで、心が温かくなるような人。

そんな人と巡り合えることが幸せなんだと思います。

里穂は大人になって嫌なこともたくさん経験して、この境地にたどりつきました。

きっと亮にとっても、里穂は思い出しただけで心が温まる存在なのだと思います。

“ただの恋愛”よりずっと深い心のつながりを感じました。

最後に

2024年本屋大賞第3位になった『存在のすべてを』を紹介しました。

ただの誘拐事件ではない。

30年後にようやく驚くべき真相が明らかになる。

人の愛情について、幸せについて、改めて考えさせられます。

まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。

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『存在のすべてを』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら、専用リーダーがあると目が疲れなくて楽ですよ。

電子書籍リーダーは必要?【使ってみた正直な感想】

本作品と同じように絵画がキーとなっている物語と言えば、直木賞候補となった『なれのはて』があります。

まだ読んでいない人は、こちらもぜひ読んでみてください。

【感想】第170回直木賞候補『なれのはて』加藤シゲアキ

2024年本屋大賞作品についてまとめた記事があります。ぜひご覧ください。

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