この記事では、2006年本屋大賞で第5位となった重松清さんの『その日のまえに』を紹介します。
この本は、「死」と向きあう物語です。
昨日までは普通にいたのに突然亡くなっていなくなった人、余命宣告されてその日までの準備をする人。
本人や周りの人たちがどのように思い、どのように受け入れたのかを描く6編の連作短編集になっています。
この本を読んだ感想を、グッときた言葉を紹介しながらまとめました。
日常の生活で忙しくしている人に、一旦立ち止まって、生きる意味・死んでいく意味を考えるきっかけにしていただけたら幸いです。
『その日のまえに』について
タイトル | その日のまえに |
著者 | 重松清 |
出版社 | 文藝春秋 |
発行日 | 2005年8月5日 |
ページ数 | 302P |
この本は、「ひこうき雲」「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・ザ・サン」「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」の6編が収録された連作短編集です。
親戚や周りの人など、誰かの「死」を経験していない人はいないのではないでしょうか。
この本を読むと、経験した「死」のことを思い出し、また自分の「死」について考えさせられます。
いつかはそのときを迎えるわけですからね。
著者について
著者である重松清さんのプロフィールです。
1963(昭和38)年、岡山県生れ。出版社勤務を経て執筆活動に入る。1991(平成3)年『ビフォア・ラン』でデビュー。
1999年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、同年『エイジ』で山本周五郎賞を受賞。
2001年『ビタミンF』で直木賞、2010年『十字架』で吉川英治文学賞、2014年『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞を受賞。
現代の家族を描くことを大きなテーマとし、話題作を次々に発表している。
著書は他に、『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『きみの友だち』『カシオペアの丘で』『青い鳥』『くちぶえ番長』『せんせい。』『とんび』『ステップ』『かあちゃん』『ポニーテール』『また次の春へ』『赤ヘル1975』『一人っ子同盟』『どんまい』『木曜日の子ども』『ひこばえ』『ハレルヤ!』『おくることば』など多数。
引用:新潮社公式HP
数々の作品を生み出し、数々の受賞歴がある作家さんですね。
それなのに、今まで著者の作品を読んだことがありませんでした。
本作品がテーマは重いのに読みやすい本だったので、これからチェックしていきたい作家さんの一人になりました。
『その日のまえに』を読んだ感想
それでは本作品を読んだ感想を、グッときた言葉を紹介しながら述べていきたいと思います。
「ひこうき雲」
勉は妻奈江のおばあちゃんのお見舞いに行く途中で、小学生の時のことを思い出していた。
クラスの誰にも厳しく、ガンリュウとあだ名が付けられ嫌われていた岩本隆子。
ガンリュウは重い病にかかり、入院したきり戻ってこなかった。
この話では、ガンリュウの涙とおばあちゃんの涙が描かれています。
ガンリュウは入院する大学病院の近くの学校に、急に転校していきました。
そこで、みんなで寄せ書きを書いて、代表者がお見舞いに行って渡します。
とはいえ、嫌っていたガンリュウに何を書けばいいのか、、、みんなが困惑。
やっつけの寄せ書きを持ってお見舞いに。
そっけない対応をするガンリュウ。でも寄せ書きを読みながら流した涙。
一方優しかったおばあちゃんは、アルツハイマー病になってしまい、施設に入ってから暴言を吐いたり別人のように。
奈江の作った色とりどりのちらし寿司を見て、喜びながら涙を流す。
大人になるまで生きられなかったガンリュウと長く生きすぎたおばあちゃん。
寿命を自分が決められるわけでもなく、2人の涙に同じ切なさを感じました。
「朝日のあたる家」
高校教師をしているぷくさんは、毎朝のジョギングの途中で、かつての教え子武口修太と再会する。
武口は、コンビニのバイトで生計を立てている自称カメラマンになっていた。
武口から、ぷくさんと同じマンションに、武口と同じく教え子の入江睦美が住んでいることを聞く。
その日の夜、睦美がぷくさんの部屋を訪ねてきたが、睦美の体には複数のアザがあった。
この話では、代わり映えのない毎日が続く「永遠」に苦しむ武口と睦美、
永遠だと思っていたものが突然終わったぷくさんの対比が描かれています。
睦美は専業主婦で、エリートサラリーマンの夫に暴力を受けているんですよね。
それから万引き癖があり、武口のコンビニで万引きしている。
一方ぷくさんは、夫が虚血性心疾患で突然亡くなりました。
昨日までいたひとが、今日、不意にいなくなる──。 でもね、と睦美に今度会ったら言ってやろう。
そのひとがいようがいまいが、明日は来るの。あさっても、しあさっても、来るの。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P64
変わらないと思っていた日々が、突然終わることがある。
そして、終わらないものなんてないんですよね。
睦美とぷくさんのそれぞれの立場、違う悩み苦しみのどちらにも共感できました。
この話で、私がぐっと来たのは次の言葉です。
終わってないから、まだ。いろんなことが終わっても、いちばん大事なことはまだ終わってない。わかる?
だから、間違っても、間違っても、やり直せる。あんたたちは、やり直せるから。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P88
ぷくちゃんが武口と睦美に言いました。
本当の終わりが「死」だとしたら、生きているうちは何度でもやり直せる。
決意したときから、今日、今からやり直せる。
そのことを忘れないようにしたいです。
『その日のまえに』は電子書籍でも読むことができます。電子書籍で読むなら専用リーダーがあると、目が疲れなくて楽ちんですよ。
「潮騒」
俊治は、ガンで余命3ヶ月と宣告を受ける。
そのまま会社に戻る気にならず、ふと思いつき小学校の2年間だけ滞在していた町に行ってみることに。
すると、クラスメイトの石川家の薬局があったので訪ねてみる。
2人で話すうちに、海で亡くなったオカちゃんのことを思い出す。
オカちゃんが亡くなって、おかしくなってしまったお母さん。
どうにもならないことだけど、子どもを失った母親のつらさは想像を絶すると思いました。
死体も上がらなかったので、気持ちの持って行き場がないですよね。
それから俊治について。
それでも、いまは違う。沖からの風も陸からの風もぴたりとやんだ夕凪の海のように、いまは感情の起伏がほとんどない。
空っぽになってしまった胸に、懐かしさだけが静かに満ちていくのがわかる。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P121
検査結果が出る前は、いろんな可能性を考えて、心の中は「嵐」だった。
でも余命宣告されて、懐かしい海を見ていると心は「凪」に。
家に帰るとまた嵐になるかもですけど、自然の前では人の心は穏やかになるものなのだと思いました。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」
トシくんは高校1年生
父親が赤ちゃんのときに亡くなってからは母子家庭で、お母ちゃんが大黒柱だった。
ある晩、お母ちゃんが「胃カメラでものもうかと思っている」と言いだす。
再検査にひっかかったようで、トシくんは急に不安になる。
トシくんは全然素直じゃないし、弱くて頼りないけど、優しくてとっても「いい子」
もしお母ちゃんが亡くなるようなことがあれば、耐えられるのか心配になった。
そして、ほんとうに母親の愛は偉大です。
息子の弱いところも、ダメなところも、どう考えてどう行動するかも全部お見通し。
お母ちゃんのトシくんに対する思いに、涙が出ました。
幸せだった。俺の中の「俺」のすべてが、ゆるゆると溶けだしていくような、そんな幸せを感じた。
だからこそ──ああ、母ちゃんは死んじゃうのかもしれないな、と思った。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P168
こんな風に、予感めいたことってありませんか?
説明できないけど、何となくそうなる気がするみたいな。
この予感はあたってほしくないですけどね。
「その日のまえに」
和美は、ガンで余命宣告を受けていた。
副作用の強い新しい療法を始める前に、一時外泊して思い出巡りをすることに。
結婚して初めて住んだ町に18年ぶりに行くと、町はずいぶん様変わりしていた。
ここからの3つの話「その日のまえに」「その日」「その日のあとに」は、和美と僕と2人の息子の物語です。
「その日」とは和美の命が尽きる日。
余命宣告されているので、本人も家族も準備することができるんですね。
だからといって治療もあきらめたわけではない。気持ちの持って行き方が難しいだろうなと思いました。
そして、ここからの話には、名言となる言葉もたくさんありました。
あとになってから気づく。あとにならなければわからないことが、たくさんある。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P179
そのときは、好きじゃなかったり大変だったりしたことも、後から振り返ればかけがえのない日々だったと気づく。
そんなことありますよね。
年を重ねれば重ねるほど、増えていく気がします。
外に向かってはじけるのではなく、内側に静かに染みていく喜びがある。
四十四歳になった僕たちは、あの頃の僕たちにはわからなかった喜びを知っている。
そうでなかったら──ひとが年をとり、ひとが生きていくということに、なんの意味がある?
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P205
若いときと、年を重ねた後では、喜ぶ内容も喜び方も変わっていますよね。
若いときにはわからなかったこと、理解できなかったことがたくさんあります。
それが人が生きていく意味の1つなんでしょうね。
「その日」
和美の病状は予想を超えて進行が早く、余命宣告よりだいぶ前に「その日」を迎えることになった。
「その日」を僕や子どもたちが、どのように迎えたのかが描かれています。
日常というのは強いものだと、和美が病気になってから知った。
毎日の暮らしというのは、悲しさや悔しさを通り越して、あきれてしまうほどあたりまえのものなのだと
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P216
毎日の暮らし、ルーティンがあることが、どんなに心強いか。
何もしないでいたら、心が耐えられなくなってしまうでしょうね。
だが、絶望というのは、決して長くはつづかないのだ。これも初めて知った。
ひとの心は絶望を背負ったまま日々を過ごすほど強くはないのだと思う。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P218
時間薬という言葉もあるように、絶望の状態が長く続くことはないんですね。
心が壊れないための防御なのでしょうね。
そして、いよいよ「その日」が、、、
世の中にこんなにたくさんひとがいて、こんなにたくさん家族があるのに、どうして、和美だったんだ? どうして、わが家だったんだ? 悔しい。 悲しい。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P250
いくら準備をしていたからって、悲しみが減るわけではありません。
子どもたちの前ではちゃんとしてなきゃいけない僕が1人泣き崩れるところは、涙をこらえることができませんでした。
身近な人の死を目の前にすると、誰もがどうしてわが家だったの?と思うのでしょう。
でも、それに対する答えはありません。
「その日のあとに」
和美が亡くなって3ヶ月が経った。
和美が入院していた病院の看護師の山本さんから、和美から預かっている手紙を手渡ししたいと連絡がある。
手紙を受け取って読んだ僕は愕然とした。
「その日」を迎えたからって、スパッと終わるわけではない。
「その日」とは僕たちが考えていた日ではなかったのか、と僕は苦悩します。
和美の人生は、そこで終わった。僕たち夫婦の、そして和美がいるわが家の歴史も、その日で終わった。
だが、僕は、その日のあとも生きている。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P264
残された人たちが、簡単に切り替えられるわけではないんですよね。
時間をかけて少しずつ和美のいない生活に慣れて、少しずつ忘れていく。
僕たちは、少しずつ、和美のことを忘れている時間を増やしていくだろう。和美のことを思いださない期間が、少しずつ、長くなっていくだろう。
(中略)
だが、和美が消え去ってしまうことは、絶対にない。
引用:重松清『その日のまえに』電子書籍P290
忘れているけれども、消え去るわけではない。いつでも思い出せる。
そのときに感じる思いは、悲しい寂しいから懐かしいに変わっていく、と「朝日のあたる家」のぷくさんが言っていました。
そして、看護師の山本さんは、この本の別な話に登場していた人でした。
トシくんとお母ちゃんのその後のお話も出てきます。
悲しいだけのお話ではないので、安心して読めますよ。
最後に
2006年本屋大賞5位となった重松清さんの『その日のまえに』を紹介しました。
6編の「死」と向き合う物語から、生きている意味・死んでいく意味を考えるきっかけになります。
まだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてください。
物語に有機野菜セットが出てきます。
オイシックスは有機野菜だけを取り扱っているわけではありませんが、おいしい新鮮な野菜が届きます。
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